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【南シナ海】スカボロー礁での中国の出方が焦点――加茂具樹・慶應義塾大学教授に聞く

ニューズウィーク日本版 / 2016年8月22日 11時34分

 南シナ海に関する主張もそうです。中国の国内で、「南シナ海の島々は中国の歴史的な領土であった。しかしこれまでは、それを主張する実力が無かった。現在はそれができる」という声をよく耳にします。だから中国は「埋め立て」を含めた行動に出ているのだと。中国はこれまで力が無くてできなかったことをしているだけだと言いますが、今、私たちが目にしている中国の活動は、既存の国際秩序に大きな影響を与える行動であり、周辺諸国からは力を背景とした現状の変更です。

 日本は中国に対して、戦後70年間の日本の平和と繁栄、そしてアジアを平和と繁栄に導いた秩序との調和を保つよう求め続ける必要があります。中国が今の行動様式を選択し続けるのであれば、中国が支払わなければならないコストは高いのだということを、日本はこれまでと同様に明確に説明する必要があります。ただし問題は「コスト」感覚が同じかどうかです。日本が高いコストだと思っても、中国はそう思わないかもしれません。



プレッシャーと協調使い分けが重要

――エンゲージメント政策が間違っていたのではとの指摘があります。

加茂氏 そう考える必要は無いと思います。日本政府は中国との間に戦略的互恵関係を構築すると言い続ける。その内実は「力を背景にした対話」という、「圧力」と「対話」とを使い分けながら、中国と向き合ってゆくのです。

 中国から見れば、安倍晋三首相の言動は対中「包囲」に見えます。4月末に岸田文雄外相が読売国際経済懇話会で行った演説を中国がどう評価しているのか分かりませんが、この演説を通じて透けて見えてくる、中国とともに「共通の規範」のようなものを作ってゆこうという主張は「対話」ということになるのでしょうか。日本と中国は隣国であり、引っ越しをすることはできません。日本の対中政策は、こういう使い分けを粘り強くやり続けてゆくのです。

 これは中国国内における外交方針をめぐる二つのグループの存在を考えると、より必要な姿勢だと思います。圧力をかけるだけだと協調派をつぶすことになるし、柔軟な働き掛けだけでもうまくいかない。中国国内における異なる声の存在を意識しながら、状況に応じて政策に硬軟を織り交ぜるというのは適切な戦略だと考えます。

【参考記事】中国は日本を誤解しているのか

――今回の仲裁判決に対して、中国国内の国際協調派の声が全く聞こえてきません。

加茂氏 そうした声が全く無くなったかというとそうではないと思います。6月に交通事故で亡くなった、かつて駐フランス大使を務め、外交学院院長や全国政治協商会議外事委員会副主任の職にもあった呉建民氏は、中国国内ではハト派の代表的人物として認知されていました。

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