【南シナ海】スカボロー礁での中国の出方が焦点――加茂具樹・慶應義塾大学教授に聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月22日 11時34分
――中国はオバマ大統領の任期が半年余りということも考え、強硬姿勢に出てくるのでは。
加茂氏 一つのチャンスと考えているでしょう。ただし、中国にとってもスカボロー礁はフィリピンと米軍と同様に戦略要衝ですが、ここで埋め立て作業に着手することは、周辺諸国から挑発と受け止められないということを中国は理解しているでしょう。
中国は、フィリピンと米国の同盟関係の強度を観察する材料としてみているのでしょうか。国際社会は、中国がどう出てくるかを測りながら、スカボロー礁がレッドラインであることを明確に伝え、それを越えることによって中国が支払わなければならないコストの高さを示すことが必要でしょう。
――中国が根回しをした結果、ASEAN外相会談の共同声明に仲裁判決に関する文言は盛り込まれなかった。中国の外交勝利でしょうか。
加茂氏 共同声明は、判決には触れずに南シナ海の問題を「国際法に沿った平和的な問題解決」を追求するとしています。2012年にASEAN外相会議は共同声明を出さなかったここと比較して考えれば良いでしょう。一方で、中国の王毅外相は南シナ海における行動規範の策定を17年上半期までに完了することを述べているように、中国はASEANにも配慮をしています。
南シナ海をめぐる問題は、これからもASEAN諸国と中国との間でずっと継続して協議してゆかなければならない課題です。判決の結果、南シナ海にある島々とこの海域における主権と管轄権は長い歴史的な過程で確立してきたという中国の主張は国際場裏では通らないことが明確になり、中国はASEANを中心とする多国間の会議の場で議論してゆかなければならなくなった、というふうに考えるべきではないでしょうか。国際社会のゲームの場に、中国を取り込んだことが重要な意味を持ちます。
【参考記事】逃げ切るのか、中国――カギはフィリピン、そしてアメリカ?
G20成功に向け現状維持が原則か
――9月には杭州で20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれます。中国の外交はどう展開するでしょうか。
加茂氏 この会議は、習政権の外交にとって極めて重要な意味を持つ国際会議です。中国の対外行動の中で最も国際社会から関心を集めている南シナ海をめぐる問題は、こうした国際会議の場で必ず議題として取り上げられ、中国はさまざまな圧力を受けることになります。それぞれ中国との関係や南シナ海に関する利害が異なるASEAN諸国と中国との対話が、この問題の行方に大きく影響してゆくのかもしれません。ですから中国はG20首脳会議までの時間を、南シナ海問題をめぐって関係する諸国との協議を深めるために費やすでしょう。これ以上(悪い方向に)大きく発展しないだろうと思います。
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