【南シナ海】スカボロー礁での中国の出方が焦点――加茂具樹・慶應義塾大学教授に聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月22日 11時34分
呉大使は、たとえ中国は発展してきたとはいってもまだまだであって、少なくともなお30年〜50年の時間が必要であり、「『夜郎自大』になってはならない」と3月の外交学院での演説で述べていました。また他の機会では、中国国内のナショナリズムの台頭を批判する発言をしていました。日本からは中国国内の協調派が見えてこないのかもしれませんが、中国において外交実務担当者や研究サークルで活動している人と対話をしていると、「『紙くず』発言は国内世論を活気づけるが、国際社会の中国イメージを損ない、中国は国際秩序に挑戦しようとしているというメッセージを与える」との憂慮もしっかりと聞こえてきます。「埋め立てはどの国もやっているのだとしても、中国はスピードが速過ぎて独善的に見える」ことを懸念しています。問題は、そうした声が実際の政策にどの程度影響を与えているのか、ということです。
安保抜きの共同開発受け入れあり得ず
――中国とフィリピンの交渉は始まるのでしょうか。
加茂氏 中国とフィリピンが領有権を争っているスカボロー礁を、中国の人民解放軍に近い筋が埋め立てて島を造ってゆく作業に着手する用意があると述べた、という香港の報道があります。そうなれば次のステージに入るのでしょう。
中国側は問題の解決にはフィリピンとの対話をすると言っています。中国は、アキノ前大統領は批判するけれども、ドゥテルテ現大統領は批判していません。今回の東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の会合でカンボジアを自陣営に引き入れたように、個別の対応をし続けるのが中国のやり方でしょう。もちろんフィリピンもまた、中国との交渉をめぐって当然に自国の国益で動くはずです。
【参考記事】【ルポ】南シナ海の島に上陸したフィリピンの愛国青年たち
――スカボロー礁周辺の資源の共同開発での合意はあり得ますか。
加茂氏 中国は経済支援や共同開発を提案するでしょう。しかし、フィリピンにも米軍にとっても、スカボロー礁は戦略的要衝ですから、経済協力の深化と安全保障上の譲歩は別次元の話になるのではないでしょうか。フィリピンも米軍も、この海域における中国の軍事的影響力が強くなるような事態を見過ごすことは到底できないでしょう。
――スカボローとパラセル(西沙)、スプラトリー(南沙)のトライアングルができてしまいます。
加茂氏 その三角形の空間が中国の空・海域となる。南シナ海をまたぐ軍事的な影響力の範囲をさらに完全なものにすることが、この海域において中国の安全保障政策が目指しているものでしょうか。
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