ヨーロッパの自己免疫疾患─ギリシャを歩いて感じたこと
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月7日 17時0分
どんどん歩きながら、俺はギリシャでのMSFの活動の細かな部分に詳しくなっていく。
「南スーダンとか、アフガニスタンであれば"ログコ(ロジステック・コーディネーターの略称。こういう言葉を知るのが俺は本当に好きだ)"は、水の供給に苦心します。何はなくても水がなくちゃいけませんから。でもギリシャは違います。先進国ですから水はあるんです。ところが」
智子さんはどう説明しようかと少し考えてから言った。
「ギリシャの場合、物資がEU内での移動になるんですね。むしろ中東やアフリカへの輸入ならそこにかかる税の計算はシンプルです。でもギリシャではEU内部での初めての大規模ミッションなので、前例がない。ということで、ものすごく込み入ったVAT(付加価値税)をまとめる作業が必要になりました」
「ははあ......」
先進国内での任務ゆえにこその、それは誰も想像も対応もしたことのない事態なのだった。
閑散とした観光地
アクロポリスへと近づくにつれ、カフェが多くなり、客引きも大きな声を張り上げるようになっていた。道は細くなり、うねり、傾斜が強くなる。しかし人影はまばらだった。
週末の昼前である
もともとギリシャが好きで十年ほど前まで何度も観光に来ていたという谷口さんがしきりと首をかしげた。
「土曜日にこんなに閑散としてるなんて......いくらなんでも少ないですよね」
経済破綻と、難民問題での観光イメージの低下だろうか。丘の上の建造物も、石畳の坂も、カフェも、オリーブの小さな葉も、等しく日に輝いてまぶしかった。世界全体が光っているように見えた。その光の中にいるのは少ない観光客だった。アンバランスさが俺をまた夢の中に押し戻しかけた。このひたすら陽光で明るい国が、解けない困難のさなかにあるなんて。
「ギリシャ一国ではもたないと思うんです」
智子さんがぽつりとそう言ったのは、カフェで休んだ折だったかどうか。場所はもう忘れてしまった。
「ドイツとトルコの仲がまたよくないんで、なかなかうまい協力体制が出来にくいんですね」
「ああ、『EUートルコ協定』でやっと、ということですか?」
【参考記事】ギリシャの『国境なき医師団』で聞く、「今、ここで起きていること」
「そうです。結局イドメニを閉じて追い返すことになっただけで。難民は別の北への道を探してイオニア海へ向かうといった動きになって、根本的には解決にならないので」
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