トランプ氏当選と中国――尖閣問題は?
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月10日 16時35分
尖閣諸島問題
となれば、あとは日本だ。東シナ海のガス田共同開発は2008年に合意したものの、北京オリンピック成功のために奔走した当時の胡錦濤国家主席は「日本に心を売った売国奴」「あれは中国の領海だ」として罵られてネットが炎上し、共同開発を断念した。日本は約束を守っているが、中国は炎上したネットの意見を採り入れて、徐々に日本に無断で開発を進めている。それに対してアメリカが強い姿勢に出たかというと、これまででさえ、そうではない。
まして尖閣諸島となると、アメリカは1970年代初期のニクソン政権時代に「尖閣諸島の領有権に関しては、アメリカはどちらの側にも立たない」と宣言して、こんにちに至っている。2012年9月と2013年1月に出されたアメリカ議会調査局リポート(CRS)は「安保条約第5条で防衛の対象となっているが、しかし尖閣諸島が武力的に侵害されたときには、まず日本が先に戦って(primary responsibility)、それを見た上でアメリカ議会あるいは短期的には大統領が米軍を派遣するか否かを決定する」という趣旨のことが書いてある。これをオバマ大統領は何度も習近平国家主席に言っていたし、中国はニクソン政権時代の宣言と、それを追認したこのCRSリポートを盾に、「だからアメリカは、尖閣諸島の領有権は日本にあるとは言っていない」と主張し、強気の態度に出てきたのだ。
政権後半には対中包囲網を形成しようとしたオバマ政権でさえこうであるならば、ましていわんや、トランプ政権になれば、「怖いものはない」と、中国は思っている。トランプ氏は一回だけ、南シナ海や東シナ海に関して中国に軍事的脅威を与えるという趣旨のことを言ったことがあったが、言葉の勢いで言っただけで、全体の政策を見れば、「不介入」の意図の方が強いと中国は見ている。
南シナ海が「安泰」であれば、残るは東シナ海、尖閣諸島である。
日本はこのことを警戒した方がいい。
トランプ氏はなぜ当選したのか?
筆者はこのコラムでは「中国問題」のカテゴリーで論評を書くように依頼されているので、他のテーマの私見を書くことは範疇外になるが、これだけは一言触れるのをお許しいただきたい。実は筆者はトランプ氏が当選するだろうと予測していた。それは少し前に講演でも話したことがあるので、結果が出たから言っているのではない。
なぜなら中国人のアメリカへの進出を考察している中で、中国政府の意見を代弁する者をアメリカに送り込んでいるのを注視してきたので、アメリカの人種別の人口構成に関心を持っていたからだ。
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