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世界トップの教育水準を労働生産性に転換できない日本の課題

ニューズウィーク日本版 / 2016年12月28日 14時30分

<学力の国際比較で日本はトップクラスなのに、その潜在能力を労働生産性に転換できていない。今後の課題は、女性を中心とした高い能力を持つ人材を、どのように生産性に結び付けるかだ>

 世界各国の15歳の学生の科学的リテラシー、読解力、数学的リテラシーを測定する、3年毎の国際学力調査、OECD「PISA 2015」が公表された。

 例によって日本の平均点の順位が注目されているが、それよりも興味をひくのは、それぞれの社会の特性との関連だ。例えば、労働生産性との関連はどうだろうか。普通に考えれば、学力が高い、つまり国民の潜在能力が高い国ほど、労働生産性が高いと考えられるが、現実はどうなのか。

【参考記事】途上国型ワーカホリックから、いまだに脱け出せない日本

 労働生産性とは、各国のGDP(国内総生産)を就業者数で割った値で、労働者のパフォーマンスの指標としてよく使われる。総務省統計局『世界の統計 2016』という資料に、各国の計算済みの数値(2013年のデータ)が掲載されている。

 横軸に「PISA 2015」の科学的リテラシー(理系学力の指標)の平均点、縦軸に労働生産性をとった座標上に、両方が分かる34カ国を配置すると<図1>のようになる。



 2つの指標の間には、若干のプラスの相関関係が認められる。しかし右側の学力水準が高い国をみると、労働生産性にはバラツキがある。

 日本は、15歳の理系学力は34カ国でトップだが、労働生産は平均水準に達していない。国民の潜在能力を生かせていない社会ということになるだろう。右下に位置しているのは、そのような「残念な」タイプの社会と括ることができる。



 確かに日本は、高度な教育で育て上げたマンパワーを十分に活用できていない国だ。女性の社会進出への障害、高学歴人材の失業(ワーキングプア化)といった事実を想起すれば、十分に理解できる。

 前者について言うと、結婚適齢期にかけて女性の正社員数はかなり減少する。<表1>によると、2010年に20代後半の女性正社員は141万人だったが、5年後、この世代が30代前半になった2015年には116万人にまで減っている。この間に、女性の正社員が2割弱も減ったことになる。



 高度なスキルを持つ専門・技術職の減少も大きい。もっと細かい職業分類でみると、女性の医師に至っては、20代後半から30代前半にかけてほぼ半減する(総務省『就業構造基本調査』)。これは女性の能力の浪費以外の何物でもない。労働生産性が高いノルウェー(図1を参照)では、このような浪費はしていないだろう。

【参考記事】このままでは日本の長時間労働はなくならない

 長時間の「痛勤」地獄も、労働生産性を下げている。有給取得率の低さに象徴される、休むことを知らぬ働き方は、斬新なイノベーションの創出を阻害している。こうした労働環境の歪みの是正も必要だ。

 日本は今後、労働力が減少するなかで社会を効率良く運営していくことを求められているが、国民の(高い)潜在能力をもっと引き出し、労働生産性を高める余地は多分にある。将来的に移民の受け入れは避けられないとしても、単純にインプット(労働力の投入量)を増やすこと以上に、できることはまだまだあるはずだ。

<資料:OECD「PISA 2015」、
   総務省統計局『世界の統計 2016』>

舞田敏彦(教育社会学者)

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