突然だったシリア攻撃後、トランプ政権に必要なシリア戦略
ニューズウィーク日本版 / 2017年4月12日 20時8分
<トランプ政権はアサド政権が化学兵器を使用したとしてシリアをミサイル攻撃したが、その後のシナリオは不透明だ。ロシアやイランがアサド政権の存続に向けて対抗姿勢を強めるなか、トランプは1日も早くシリア政策を打ち出す必要に迫られている>
トランプ米政権はシリアの空軍基地に対するミサイル攻撃に踏み切り、化学兵器を使用したシリアのアサド政権を容赦しないという姿勢を見せつけた。しかしその後シリアをどうするのかという展望はまだ示していない。
トランプ政権は早急に、この新たな状況下でシリアとロシア、ISISがもたらす課題に取り組むための戦略を打ち出す必要がある。一貫した国家安全保障戦略がなければ、この複雑な事態を乗り切るのは困難だ。
筆者はここ6週間で2度シリアに渡航した者として、米軍の特殊部隊がISISやシリア、イラン、ロシア軍部隊にどれほど近いところにいるか知っている。このまま睨み合いが続けば、状況の誤認やちょっとした挑発行為で予期せぬ軍事衝突を招くリスクがある。
アメリカは豊富な証拠を示せ
アメリカが率いる有志連合がこれまでシリアやイラクでISIS掃討作戦を実施できたのは、アサド政権とこれを支援するロシアやイランが黙認していたからだ。だがそれも、もう終わりかもしれない。シリア軍とロシア軍がミグ23(MiG-23)やスホイ22(Su-22)、スホイ25(Su-25)などの戦闘機やヘリコプターを配備していたシリアのシャイラート空軍基地を、米軍がミサイル攻撃したからだ。イランとロシアの対決姿勢はすでに明らかだ。
シリア政府軍が化学兵器を使ったと非難するなら、アメリカは証拠を提示し、堅実な外交と確かな軍事力を持ってするほうがいい。戦略の策定には、アメリカの様々な国益に優先順位をつけ、現実主義であたるべきだ。中東と世界におけるアメリカの地位は、トランプ政権がこの危機をいかに巧みに処理するかにかかっている。
以下の3つの原則は、効果的な外交と成功の基礎になるものだ。シリアのバシャル・アサド大統領やロシアのウラジーミル・プーチン大統領のような人物が交渉相手なら、相応の軍事力をバックに毅然とした姿勢を取る必要があるだろう。
外交から武力行使に切り替えるべきだと言いたいのではない。外交の効果をよりよく発揮するために軍事力の裏付けを使うべきだ、ということだ。
1)アメリカは、アサド政権が化学兵器を使って自国民を攻撃するのを許さないという姿勢を明確にした。シリアとロシアは化学兵器の使用を否定しているので、できる限り多くの証拠を提示して対抗しなければならない。その証明ができれば、2013年にロシアがシリアに合意させた化学兵器禁止合意の遵守を改めて求めることができる。
2)ISIS掃討作戦に関わる米軍や有志連合に対する脅しは、今後容認できないとはっきりすべきだ。ロシアが本気でISISの壊滅を目指すというのなら、その証としてシリア上空での偶発的な衝突を防ぐためのホットラインを再開するようロシアに求める手もある。
3)アメリカはイラクやシリアにおける対ISIS軍事作戦という目にばかり捉われず、長年悲惨な暴力に苦しんできた両国にとって満足のいく政治的解決策を見つけられるよう、より広範な支援を打ち出すべきだ。同地域の紛争解決や安定を実現するだけの力を国際社会から結集できるのはアメリカだけだ。
リンダ・ロビンソン(米ランド研究所研究員)
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