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「北極シルクロード」争奪戦は中ロが先行中

ニューズウィーク日本版 / 2018年4月23日 12時5分

そうした現実は実際の貨物量に表れている。北極海航路を利用した貨物輸送量は昨年、過去最多の970万トンに達したが、そのうち航路全域を航行したのはわずか19万4364トン。残りはロシアの国内輸送(大型エネルギープロジェクトの建設機材が多い)か、ヤマル半島の液化天然ガス(LNG)の対アジア輸出などに限られていた。

それでもロシア極北の石油・ガス資源を市場に運ぶという点で、北極海航路は重要だ。ロシアのガス生産企業ノバテクは砕氷LNG輸送船15隻を発注。その第1号が昨年8月に北極海航路を航行、第2号は冬に砕氷船の先導なしで韓国からロシア北方経由でフランスまで航行した。

ロシアは北極のエネルギー資源を開発したがっている。14年のクリミア併合を受けて欧米が科した制裁も一因だ。制裁によってロシアは従来の油田・ガス田の生産性を維持するのに必要な新技術へのアクセスを制限されていると、米シンクタンク、戦略国際問題研究所のヘザー・コンリー上級副所長は指摘する。

アメリカのいない隙に

ヤマルLNGプロジェクトが軌道に乗った今、ロシアは国際LNG市場でのシェア拡大を狙っている。LNG市場にはアメリカが大規模参入したばかりだが、ヤマル半島のLNGは低コストで、そうしたライバルより安く売れる。北極海航路のおかげで、プロジェクトがフル稼働する20年には、世界のLNG市場におけるロシアのシェアは倍増する見込みだ。



北極海経由のエネルギー貿易はロシアと中国の絆を強化している。中国は120億ドルを投じてヤマルLNGプロジェクトを支援しており、ロシア産LNGの大口顧客になる見込みだ。北極海航路は、人口の集中する北東部をはじめ中国の大規模な天然ガス需要に対応するのに役立つだろう。さらに、この航路を使えば海賊行為が横行するマラッカ海峡も通らずに済む。

「クリミア併合以降、状況は一変した」と、キイスキーは言う。「ロシアは北極海航路を自国の輸出ルートにし、中国との関係を強化したがっているようだ」

中国は北極海航路を「北極シルクロード」と呼び、習近平(シー・チンピン)国家主席が提唱する数兆ドル規模の広域経済圏構想「一帯一路」と結び付けている。「北極シルクロードは一帯一路の一部となって、これまで以上に重視されている」と、コンリーは言う。

一方、アメリカは出遅れている。オバマ前政権下で北極が注目を浴びたのは気候変動絡み。トランプ政権はアラスカ沖の北極圏海域でのエネルギー開発を推進する以外、北極を優先課題とはしていない。「誰も緊急課題と考えておらず、予算もない」と、コンリーは言う。「その隙にロシアと中国は北極での利権と活動を拡大する一方だ」

アメリカが北極の重要性に気付く頃には、もう手遅れかもしれない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年4月24日号掲載>

キース・ジョンソン、リード・スタンディッシュ


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