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元米兵捕虜が教えてくれた、謝罪と許しの意味

ニューズウィーク日本版 / 2018年8月15日 19時30分

以来、私はずっと、捕虜側の苦しみと祖父の苦しみの間で立ち往生してきたのだと思う。仕事やプライベートで元捕虜やその家族に会い、彼らの苦しみを前にするたび、心の底から申し訳ない気持ちになる。祖父の側に、もしくは日本の側にどのような事情があったとしても、日本軍の下での捕虜生活が精神的、肉体的に筆紙に尽くし難い苦難であったことは、紛れもない事実だ。だがそうしたとき、元捕虜たちに何という言葉を掛ければいいのだろう。自分がやっていないことについて謝ることはできない。それでも、「アイム・ソーリー」とは言いたくなる。そう言ったとして、それは相手の心に届くのだろうか――。



1つの歴史を日米双方の視点から追い掛けてきたことをかいつまんで話し、アメリカへの屈折した思いまで吐露していた私は、気付くとそんな問いを口にしていた。するとスタークは、ほとんど間を置かずにこう応じた。「その言葉はとても、心に響くよ」。そして、瞳を潤ませた。

戦争をまったく知らない世代の私の言葉が、祖父と何の面識もないスタークの心に響いている。心が通じたという大きなうれしさはあったが、自分の言葉がなぜ意味を成すのかが分からなかった。だがその後に続くスタークの言葉で、私は彼の心の動きを身をもって知ることになる。

自分の話を切り上げ、取材する側に戻ろうとする私を、スタークは「いや、聞きなさい」と制した。「心の内を話してくれて、ありがとう。私も同じような経験を何度もしてきたよ。私はあなたのおじいさんを知らないし、彼が追及されたようなことをやったのかどうかは分からない」。そして彼は目に涙をためながら、私がまったく想定していなかった言葉、だが心のどこかでずっと聞きたかった言葉を発した。

「もしやっていたとしても私は彼を許すし、もしやっていなかったとしたら、間違いが起きてしまったことを謝りたい」。そこで彼は1度言葉を止め、こう続けた。「だが私が最も申し訳なく思うのは、君がこんなに傷ついていることだ。戦争は地獄だ。単なる地獄、それ以外の何物でもない」

戦友会に集まった元捕虜たち。前列左がウォーナー、後列左から2番目がスターク(15年6月) Satoko Kogure-NEWSWEEK JAPAN

パンドラの箱を開けて

地獄の記憶に完全に幕を下ろせる日は、それが生々しく語り継がれている限り、おそらくやっては来ないのだろう。その一方で、戦争を体験した世代は戦後の人生でいくつもの「終止符」を打ってきた、いや打とうとしてきたのかもしれない。そうしなければ、生きていけなかったからだ。

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