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中国の「監視社会化」を考える(2)──市民社会とテクノロジー

ニューズウィーク日本版 / 2018年12月21日 18時0分

先ほど述べた芝麻信用の話に戻しますと、この社会信用スコアの問題点の一つは、なぜ上がったり下がったりするのか、それがよくわからないということにあります。この芝麻信用は利用する際にSNSを通じた交友関係や学歴も入力することになっていますが、どの程度重みづけされてスコアが計算されるのかは公表されていません。たとえば私自身、この夏に北京に行く前の芝麻信用のスコアは577点だったのですがが、3週間滞在して、いろんなサービスを使っているうちに1点上がって578点になりました。しかし、なぜ上がったのかはよくわからない。

こういった、「よくわからないシステム」によって行動が評価されて、それが何らかの形で自分に利害を及ぼすようになる。つまり、再帰的な行動評価のシステムがブラックボックスになっていると、人々はいわゆる「自発的な服従」といわれるような行動をとるようになってきます。つまり、それによって恩恵を得られるので、みんなおとなしく従う、という状況が生じてくるわけです。

中国社会と言うと、一時期のイメージとしては非常にアグレッシブで、カオスのようなエネルギーにあふれている、決まりがあってもみんな守らないで自分勝手な解釈で行動する、そういう民間のエネルギーにあふれている社会だ、というのが一般的なイメージだったと思いますが、実はこのところ大都市に限って言うと、「行儀がよくて予測可能な社会」になりつつあるように思います。こういったテクノロジー、アーキテクチャの導入による中国社会の変化を、前回の連載でのべたような「市民社会」の問題とどうつなげればよいのか。次回は、この点を議論したいと思います。


参考文献
東浩紀(2007)「情報自由論2002-2003」『情報環境論集 東浩紀コレクションS』講談社
大屋雄裕(2014)『自由か、さもなくば幸福か』筑摩選書
大屋雄裕(2018)「確率としての自由―いかにして<選択>を設計するか」『談』第111号
セイラー、リチャード=キャス・サンスティーン(2009)『実践行動経済学』日経BP社
田畑暁生(2017)「事件報道が『加担』する監視社会―権力見張る側面強化を」『Journalism』第329号
レッシグ、ローレンス(2001)『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』翔泳社

[執筆者]梶谷懐
神戸大学大学院経済学研究科教授。専門は現代中国経済論。1970年大阪府出身。神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。最新刊の『中国経済講義-統計の信頼性から成長のゆくえまで』(中公新書)、『日本と中国経済』、『日本と中国、「脱近代」の誘惑』ほか、著書多数
ウェブサイト:http://www2.kobe-u.ac.jp/~kaikaji/
ブログ「梶ピエールの備忘録。」http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/



梶谷懐(神戸大学大学院経済学研究科教授=中国経済論)


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