中国の「監視社会化」を考える(2)──市民社会とテクノロジー
ニューズウィーク日本版 / 2018年12月21日 18時0分
結局、ある程度テクノロジーによる幸福や安全の追求が進んだ社会において、近代的な価値観、すなわち特定の価値観を持った個人を差別・排除しないことに価値を置く、リベラリズムの価値観にコミットするのであれば、「社会を構成する全員が等しく監視の目にさらされ、そのようなものとして平等であるような社会」の象徴としての、ハイパー・パノプティコンを受け入れざるを得ないのではないか、というのが大屋さんの問題で提起です。それは決して心踊るような理想的な社会ではないかもしれないけれども、どれも耐え難いように思える三つの選択肢の中では少なくともいちばん「まし」なものである、というわけです。
以上のような「監視社会」に関するこれまでの議論を踏まえた上で、そろそろ現代の中国の話に移っていきたいと思います。
3.「お行儀のよい社会」になる中国の大都市
2014年に中国政府が「社会信用システム建設計画要綱(2014-2020)」を公表して以来、中国で急速に進むビッグデータの蓄積とその管理、およびそれらを結びつけた「社会信用システム」の構築について関心が高まっており、日本でも関連する報道が増えてきました。すでに中国ではジョージ・オーウェルの小説『1984』さながらの、政府がすべてを監視するような社会が構築されつつあるような印象を与える報道も目立ちます。
ここで、少し整理をしておきましょう。現在の中国において、ビッグデータを用いた「社会信用」はその提供主体や目的の面で二つに大きく分けられます。先行したのはIT大手であるアリババ傘下のアント・ファイナンスが開発した「芝麻信用(セサミ・クレジット)」をはじめとした、民間企業が提供する信用スコアです。これは基本的にはインターネット上の商品や信用の取引を円滑に進める目的で開発されたものです。
中国ではクレジット決済を含めた信用取引が極めて未発達でした。不渡りなどの法制度が未整備であることに加え、零細な企業の参入が相次ぐ産業構造により、企業同士が長期的取引関係を結びにくかったからです。もともと、アリババが開発した独自の決済システム支付宝(アリペイ)は、第三者の仲介機能によってインターネット取引における「信用の壁」を乗り越えたところにその画期性がありました。「芝麻信用」などの信用スコアはそれを一歩推し進めたもので、取引を仲介するプラットフォームに蓄積されるデータから割り出される個人や企業の「信用度」を、一目でわかるスコアに置き換え、信用取引にかかる審査などのコストを大きく引き下げることを狙ったものです。
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