中国の「監視社会化」を考える(2)──市民社会とテクノロジー
ニューズウィーク日本版 / 2018年12月21日 18時0分
もう一つ重要なものとして、動体認識、すなわち人々の動作をAIが認識してその特徴を記録することに関する技術があります。たとえば無人コンビニなどで、人がその中でどのような動きをするか、ということをパターン化してそのデータを保存する。30代の男性がビールを買った後にどんなおつまみを買うか、などということを全部データとして蓄積していく、ということです。あるいは、歩き方の癖を記録してプロファイリングしておき、暗くて顔がよく分からない場合でも監視カメラに映った人物を特定化し、犯罪者の拘束につなげるといったことも可能になります。この3つの技術を開発し、実際のビジネスや、上記の「社会信用システム」のような行政による統治技術などとも連動して利用できるようなシステムの開発に向けて、若くて優秀な技術者を要するベンチャー企業がしのぎを削っているわけです。
統治テクノロジーの進化
さて、こういった統治テクノロジーが進んだことによって中国社会はどう変わりつつあるのでしょうか。まず言えるのは、特に大都市を中心に「お行儀の良い社会」になりつつあると言うことです。以前から仕事などで中国に行く機会が多かった方が、現在の大都市を訪問すると如実にその変化を感じるのではないかと思います。たとえば「人民日報」には、中国の人口10万人あたりの殺人件数は2017年が0.81件と、殺人発生件数の最も低い国の一つになったと書かれています。暴行罪の件数は2012年より51.8%減少し、重大交通事故の発生率は43.8%減少、社会治安に対する人々の満足度は、2012年の87.55%から2017年の95.55%に上昇したと(「『人民網日本語版』2018年01月25日」)。
言うまでもなく「人民日報」は中国共産党の機関紙ですから、これはプロパガンダの一種ではあるのですが、一方でこれらはあながち嘘でもないと私は思います。特に殺人だとか暴力的な犯罪が劇的に減っているというのは、中国に長く住んでいる人々の中からも実感として聞かされるところです。タクシー運転手にまつわるトラブルも昔は多かったのですが、今は配車アプリによって常にレイティングされ、評価されているので、あまり変なことができないわけです。要は、「向社会的行動の点数化」、つまり人々がより社会のためになるような行為を行うと、それが可視化されて自分の利益になっていく仕組みが社会の中に実装されつつある、ということなのでしょう。
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