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中国の「監視社会化」を考える(2)──市民社会とテクノロジー

ニューズウィーク日本版 / 2018年12月21日 18時0分

一方、地方政府が主体となり、市民の個人情報と行動を管理し、問題行為をさせないようにするための「社会信用システム」についてもいくつかの都市で試験的な運用が始まっています。たとえば2018年の11月20日には、北京市で約2200万人の市民に対し、複数の行政部門から集めたデータを用いて、行動や評判に対する表彰や懲罰を行うシステムが運用を開始する、という報道がなされました。

ただし、現状ではまだ全国で統合されたシステムが存在するわけではありません。やはり2018年の3月には国家発展改革委員会によって、5月1日から「信用度」が低い市民は飛行機や鉄道のチケットが買えなくなる、という通達が出され、中国国外でも注目を集めました。これは、チケットやパスポートの偽造、著しい迷惑行為などの問題行動を起こした人物に懲罰を与えることを目的としたものですが(もっとも、同様の行政処分は2014年ごろから始まっていましたが)、現在は都市ごとに運用されている社会信用システムの、全国レベルにおける統合に向けた試みという意味もあると見られます。

また、現時点では民間会社が提供する信用スコアと(地方)政府の運用する社会信用システムは結びついていないことにも注意が必要でしょう。すなわち、後者の評価が下がるような問題行為を起こした人物が信用スコアを下げ、タオバオ(アリババグループが運用する通販サービス)などで買い物ができなくなる、ということも現状では生じていないのです(ただし、一部の都市で政府の提供する市民の行動を評価してスコア付けするプログラムの作成をアント・ファイナンスが請け負う動きはあるようです)。



もちろん、これまで民間企業に蓄積されてきた個人の信用情報を政府が管理する動きは当然ながら存在します。中でも注目されるのが、今年2月に政府系のインターネット金融協会と、芝麻信用を含む8つの民間企業が出資して発足した「信聯(正式名は百行征信用有限会社)」です。政府は信聯に初めて個人信用情報ビジネスのライセンスを与え、急速に拡大するP2Pの融資などインターネット金融の拡大に伴う個人信用情報の市場取引に伴うインフラ整備と不正行為の防止を図ろうとしています。この「信聯」の発足により、アント・ファイナンスなどの民間企業が独立した個人信用情報ビジネスを展開することは事実上不可能になりました。

「監視」をめぐる状況

さて、報道によっては、あたかも中国政府がすでに国家が個人情報を一元的に管理する「社会信用システム」の青写真をすでに描いており、民間企業の提供する「社会信用スコア」もその中に組み込まれているような印象を与えるものもありますが、それは明らかにミスリーディングだといえるでしょう。民間企業が運用する社会信用スコアは、その企業にとって大きな利益を生む財産であり、その他企業や政府のシステムとの統合はそう簡単には進まないと考えられるからです。ただし、注目しておきたいのは、現在の中国では、レッシグが警鐘を鳴らしたような「大手民間IT企業が提供するアーキテクチャが人々の行動を左右する」という状況、及びサンスティーンらが推し進めようとしている「温情主義的な政府が制度設計によって市民を善導する」という動きが、ほぼ同時かつ急速に進行している、ということです。

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