中国の「監視社会化」を考える(2)──市民社会とテクノロジー
ニューズウィーク日本版 / 2018年12月21日 18時0分
その後日本では、2013年の特定秘密保護法、および2017年のテロ等準備罪(「共謀罪」)法案の成立に伴い、記事データベースにおける「監視社会」の登場回数も急増しました。特に2017年の第193回国会で成立した「テロ等準備罪法案」に対しては、政治的な活動に参加している人々を未だ起こしていない犯罪を理由に取り締まることが可能になるため、戦前の治安維持法をイメージさせるとして強い批判の声が上がりました。
ただ、総じていえば、日本では「国家権力に対する市民の監視」の強化に対する批判や反対運動が一時的な盛り上がりを見せることはありますが、「管理社会」「監視社会化」の動き一般について、それを警戒する声が社会の中で大きな広がりを持つことはほとんどなかったといえるでしょう。これは端的には街角や店舗などに設けられた監視カメラが犯罪の抑止・摘発にとって有効なものであるという認識が広がったためかもしれません。しかし、より本質的には東さんによる「監視社会」が市民自身の欲望から生まれてきた、という問題提起の正しさを示す事態のように思えてなりません。
一方、明確な「監視」の形をとらないにしても、テクノロジーの進歩やそれを牽引する企業が提供するサービスが、市民にとって「できること、できないこと」を決めていくという状況もより普遍的なものになってきます。
ローレンス・レッシグの議論
この点に関する先駆的な議論としては、なんといってもサイバー法などを専門とするハーバード大学教授のローレンス・レッシグの議論が挙げられるでしょう。レッシグは、15年以上前から『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』などの著作で、テクノロジーの進歩が社会における規制のあり方をどのように変えていくのか、鋭い問題提起を行っていました(レッシグ、2001)。
レッシグは、市民の行動を規制するのに、「法」「規範」「市場」「アーキテクチャ」という4つの手段があることを指摘します。このうち、最後の「アーキテクチャ」を通じた行動の規制とは、公園のベンチに仕切りを設けることによってホームレスの人々がそこに寝転がりにくくするなど、インフラや建造物等の物理的な設計を通じて、ある特定の行動を「できなくする」ことを指します。レッシグは、コンピュータとインターネットによって生み出されたサイバー空間について、大手企業が提供するアーキテクチャを通じた規制によって、自由で創造的な行動が制限される度合いが強まっている、と警鐘を鳴らしたのです。
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