中国の「監視社会化」を考える(2)──市民社会とテクノロジー
ニューズウィーク日本版 / 2018年12月21日 18時0分
政府が進めようとしている動きを「監視」
そこで、今後そういった人々の暮らしをよくするナッジやアーキテクチャを政府が提供する機会が増えていくとして、その決定のプロセスに、市民の側がどの程度主体的にかかわり、政府が進めようとしている動きを「監視」していくべきか、という問題意識が生じてきます。
これに関して、法哲学を専門とする大屋雄裕さんが次のような議論をされています。大屋さんは、将来への主観的な不安に備える安心のシステム(セキュリティ)がそれ自体人々の「自由かつ民主的な」欲求から生まれている以上、「安心」を保証するためのアーキテクチャ=監視システムの導入は避けられない。そして、テクノロジーの進歩によって幸福と自由とのトレードオフが顕在化した状況、すなわち19世紀的な「自由で平等な個人」が作り上げる市民社会の「夢」が「危機」に瀕する中で、来るべき次の世界の在り方を模索すべきだとして、以下のような三つの社会像を提示しています。
三つの社会像
1つ目は、「新しい中世の新自由主義」です。簡単に言えば、私企業が提供するアーキテクチャによって人々の行動が制限され、「法」や政府によるコントロールが効かなくなってしまった結果、ある意味で初期の資本主義に似た弱肉強食の世界、すなわち「力のあるものが勝つ」「自分の身は自分で守れ」といった自己救済の世界に戻ってしまうような事態だと考えればよいでしょうか。
2つ目が「総督府功利主義のリベラリズム」です。「総督府功利主義」は功利主義に批判的な見解で知られる哲学者、バーナード・ウィリアムズが用いた用語ですが、これはちょうどビックデータが「善良な」一部の人々、および彼(女)らによって運営されている公権力によって集中的に管理されており、それを基に社会を制御するアーキテクチャが決められてしまい、多くの人がそれにただ従うだけ、そういうイメージの社会です。こういった社会の具体的イメージについて、大屋さんは「個人の『情報処理能力や判断能力の弱さ』を克服するために、各人が自由に振る舞うとしても社会全体の幸福が自動的に実現する社会を、アーキテクチャ的に制度として実現するというモデル」だと表現しています(大屋2014、224ページ)。
そして3つ目が「万人の万人による監視」、大屋さんの言葉を借りれば「ハイパー・パノプティコン」です。これは、テクノロジーの進化を通じて「監視」が社会のいたるところで行われるようになった結果、人々がエリート層や政府も含めて「監視されるもの」として平等になり、その平等性への一般的な信頼ゆえに社会の同一性と安定性が保たれる、といった状況をイメージすればいいでしょう。
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