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百田尚樹はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか――特集・百田尚樹現象(1)

ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分

会は大盛況で、午後6時の開始前から整理券片手に待っている人であふれ返っていた。列の先頭は50歳前後のサラリーマン風の男性で、グレーのスーツに白いシャツ、ネクタイもきっちり締めて立っている。私に「サヨク」と叫んだ声の主は渋谷区在住の税理士の女性(48)である。最初のひとことこそ強烈だったが、取材の趣旨を説明すると快くインタビューに応じてくれた。

「私、靖国神社の例大祭に行ってもマスコミから声を掛けられるんですよ。だから、またかと思ってしまって......」。薄手のベージュのコートを羽織り、ややウエーブがかった髪という都会的ないでたちは、物々しい「靖国神社」から連想されるイメージとは程遠いものがあった。

彼女にとって、百田は「日本人の偉大さを思い出させてくれた小説家」だという。『海賊とよばれた男』(講談社、12年)などベストセラーとなった小説にほれ込み、百田の論説にものめり込んでいった。サイン会に来たのは、この日が初めてだという。7~8年前まで「知識がなく洗脳されていた」と冗談めかして語る彼女は、百田を介して日本の「真の姿」に接近していく。

その結果、今ではアジア各地を旅行していても、若い時に感じていた「日本はここまで侵略していたんだな」という感情は消え、「アジア解放のために戦った日本人」に思いをはせるようになったという。

彼女には在日韓国人の友人もいる。百田がツイッターで「韓国という国はクズ中のクズです! もちろん国民も!」などとつぶやく。これが彼らに対する「ヘイト」に満ちたものだ、という批判があることも知っている。しかし、友人たちとは政治の話はしない。あくまで自分の「意見」を持っているだけで、考えを他人に押し付けることはしたくないというのが彼女のスタンスだった。



『虎ノ門ニュース』のスタジオに入る百田をファンが「入り待ち」(4月16日) HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

冒頭で百田尚樹にはギャップがある、と書いた。ギャップはそれだけではない。小説家と右派論壇人としての顔、読者への丁寧な応対と韓国や中国に対する攻撃的なツイートも二面性と言えるだろう。

ファンから見れば日本を愛する「ヒーロー」、批判する側からは間違った歴史を語る「ぺてん師」のように見える。評価も真逆だ。積み重なったギャップは、極端から極端へと振れ幅を増幅させ、百田の姿をますます見えない存在へと変えていく。

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