百田尚樹はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか――特集・百田尚樹現象(1)
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分
百田の実像に迫るべく、私は彼の著作を全て読み、過去のインタビューや雑誌の論説も可能な限り集めた。その上で、百田を重用する出版、テレビ関係者に取材を申し込み、3時間半にわたる本人のインタビューも収録した。
本人にもあらかじめ伝えたように、百田と私は政治的な価値観や歴史観がかなり異なる。「リベラルメディア」と言われる毎日新聞で10年ほど記者経験があり、これだけ売れているにもかかわらず周囲で『日本国紀』を読んだ人に出会ったことはなかった。つまり、私自身も現象を捉え切れていない1人なのだ。だから、知ろうとすることから始めた。「分からない」から出発し、当事者に当たり、事実から浮かび上がる「現実」にこそ、真相が宿るというのが私の基本的な考え方だ。
インタビューでも主張すべきはしたが、ディベート的に言い負かすための時間にはしなかった。彼の姿勢を丁寧に聞くことが、私が知りたい現象の本質を浮かび上がらせると考えたからだ。
百田現象から見えるのは、日本の分断の一側面であり、リベラルの「常識」がブレイクダウン――崩壊――しつつある現実である。
出版不況の中で百田の本はヒットを連発。書店には「コーナー」が HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN
第1章:彼らたちの0
リベラル派から百田への批判は3つに分けることができる。第1に「ヘイトスピーチ」まがいのツイートや発言を連発しているというものだ。批判を受けたものを列挙すれば切りがないが、先に挙げた韓国に対するツイート、沖縄の2紙を「つぶさなあかん」との発言は特記しておくべきものだろう。百田現象を取材していると話したとき、リベラル系の知人からはこぞって「差別発言は許せないので、批判してください」と激励を受けた。彼らの目に映るのは、やはりツイートなのだ。
第2にファクトの確認が甘過ぎるという指摘だ。例えば、芸人の故・やしきたかじんと、彼が亡くなる直前に結婚した妻さくらの姿を描いた『殉愛』(幻冬舎、14年)では、たかじんの長女と元マネジャーの男性から名誉毀損で訴えられ、いずれも敗訴している。後者の裁判では14カ所で名誉毀損が認められ、元マネジャーへの取材がなかったことが認定された。
何かと話題の『日本国紀』でも明確な事実誤認、ミスが発生し初版から増刷のたびに修正が繰り返されている。戦国時代にやって来た宣教師たちが「日本の文化の優秀さに感嘆している」根拠として、初版では「ルイス・フロイス」のものとされる文献が紹介されているのに、手元にある第8版では「フランシスコ・ザビエル」に変わっている。
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