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百田尚樹はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか――特集・百田尚樹現象(1)

ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分

中学時代の成績は悪く、特に「英語と数学」は1桁得点、時に0点を取るほど苦手だったという。百田は奈良県内の公立高校に進学しているが、いわゆる進学校ではない。就職も進学もしなかった百田は卒業後、一念発起し、独学で大学進学を目指す。

同志社大学への進学を決めた百田はちょっとした有名人だった。関西発の人気恋愛バラエティー番組『ラブアタック!』の常連参加者になり、お茶の間を沸かせていた。テレビというメディアで、どうしたら人々を笑わせ、目立つことができるのかを考えていた。その感性に目を付けたのが、当時20代のディレクターだった朝日放送(ABC)の松本修だった。



松本は大学を中退した百田を誘い、それまで誰もやったことがなかった新しいテレビ番組を作り上げる。90年代の全盛期には関西で視聴率30%を誇り、今なお続く『探偵!ナイトスクープ』だ。視聴者から寄せられた疑問を、「探偵」に扮したタレントたちが解決する。番組を要約するとたったこれだけなのだが、素人の依頼を涙あり笑いありに仕立て、視聴者を熱狂させたのが、チーフ構成作家に抜擢された百田だった。

この番組で特に評価が高いのが、91年放映の「全国アホ・バカ分布図の完成」である。ギャラクシー賞選奨に選ばれた同作を見た編集者が、92年に書籍化を企画し、大阪に向かった。太田出版の現社長、岡聡だ。

そこで百田と出会った岡は、14年後、主要出版社が軒並み断った『永遠の0』の出版に踏み切った。小説家・百田尚樹の生みの親にして、デビュー作からベストセラー作家としての地位を確立するまで、伴走した盟友だ。

私の取材に対し岡が繰り返し強調していたのが、「僕は百田さんと政治的な立場や考えが違うことも多いけど、彼が面白い人であり、僕はずっと友達でいたいと思っている」ということだった。

2人が最初に出版した小説『永遠の0』のあらすじはこうだ。現代を生きる孫たちが、終戦から60年目の夏に、特攻で亡くなった零戦パイロットである祖父の足取りをたどる。国に命をささげることを拒み、臆病者とさげすまれても、生きて妻と子供の元に帰ることに執着していた祖父は、なぜ特攻で死んだのか。関係者の証言の先に浮かび上がる真実を探る──。

百田は私のインタビューに、デビュー作のテーマに戦争を選んだのは、親世代の経験を自分の子供の世代に残したかったのであり、伝えたかったのは「生きることの素晴らしさ」であると語っている。この小説を書くと決めたとき、彼に戦争体験を語ってくれた叔父は他界し、父は末期癌で闘病していた。戦争を知る世代がこの世を去る。チームで取り組むテレビ業界の仕事だけでなく、個人として何かを残したい。そんな思いが原動力になった、とも。50歳は「ゼロ」地点からリスタートした年になった。

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