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百田尚樹はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか――特集・百田尚樹現象(1)

ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分

静かなデビューだった。後に関連書籍も含めて500万部超という数字が躍るとは誰も思っていなかった。ヒットにつながる口火を切ったと言われるのが、俳優の故・児玉清の評価だ。

児玉は文庫版の解説で「嬉しいを何回重ねても足りないほど、清々しい感動で魂を浄化してくれる稀有な作家との出逢いに天を仰いで感謝の気持を表わした」(原文ママ)と激賞した。俳優としてだけでなく、無類の読者家でもあった児玉には、安倍晋三首相を政治家として高く評価する保守主義者としての一面があったことも記しておくべきだろう。



書店にはベストセラー小説が平積み HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

後年、同作に付いて回る「右傾エンタメ」という言葉はまだ聞こえてこなかった。岡はむしろ、出版当初は左派から評価されたと語っている。「右傾化」だと言われるようになったのは、百田本人のツイッター(10年に開始)とひもづけて語られるようになってからだという。

証言を裏付けるように同作は文庫化後、10年7月に朝日新聞の書評欄に取り上げられ、絶賛されている。朝日新聞の書評は掲載のハードルが高く、書店員も読書好きも読む。評者は文芸作品の書評を数多く手掛けてきた、ライターの瀧井朝世である。彼女がいかに「絶賛」したかを引用しておこう。

「最後まで信念を持ち続けた彼の心の強さが明るみに出る場面では、どうしても涙腺が刺激されてしまう。......祖父の真実を知った後、人生における決断を下す主人公たちのように、読み手にも何らかの勇気が与えられる。読後には、爽快感すら残されるのだ」

この書評には「右傾化」「戦争賛美」という懸念は一切出てこない。

■ストーリーテリングの妙

作家の本質はデビュー作に表れるという格言に従うならば、そこには確かに本質が詰まっている。かつて百田を担当してきた編集者に話を聞くと、共通する評価ポイントが浮かんできた。そのいずれもが『永遠の0』にはある。

1つは「読みやすさ」だ。百田の小説はどれも平易な日本語で書かれている。デビュー作では、複雑な戦場描写を経験者の「語り」という形で表現することで、シーンを再現した。岡は百田から「自分は関西一ナレーションを書くのがうまい」という話を聞いたことがある。彼は怪物番組『ナイトスクープ』で培ったナレーションの技術を小説に応用している。

次に「ストーリーテリング」の妙である。どうすれば読者を飽きずに引き付けられるのか。山場をいくつも作るストーリー展開と構成力、これも視聴率と向き合ってきたテレビでの経験を応用している。

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