幻冬舎・見城徹が語った『日本国紀』、データが示す固定ファン――特集・百田尚樹現象(2)
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分
それにしても、幻冬舎の対応は解せない。『殉愛』のあとに、百田尚樹が新刊を出す。それも歴史をテーマにするとなれば、小さなミスが批判を呼ぶことは当然予測できるはずだ。それなのに見城は、なぜ出版したのか。思い付く可能性は3つだ。利益が見込める、作家・百田尚樹の可能性に賭けた、あるいはその両方か──。取材を終えて、大阪の街を歩いているときに携帯が鳴った。担当編集者からだった。
「見城さんから取材に応じると連絡がありました」
初めて『日本国紀』について取材に応じた幻冬舎・見城社長(5月10日) HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN
5月10日、東京・北参道──。駅から徒歩数分の好立地に幻冬舎はある。応接間に案内されると、約束の時間ぴったりに見城徹はやって来た。百田の担当編集者である高部真人も同席した。見城が『日本国紀』について取材を受けるのは初めてである。低音ではあるが、常にはっきりとした口調で質問に応じた。
見城徹──。角川書店の名物編集者として名をはせ、93 年に幻冬舎を設立。ヒット作や話題作を数々世に送り出し、会社を着実に成長させたメディア界の大物だ。その言動から、業界内外で好き嫌いがはっきり分かれる人物である。「変に同調する必要はないから、遠慮せずに何でも聞いてほしい」というのが唯一、提示された条件らしい条件だった。私がここで聞きたかったテーマは、大きく分けて4点ある。百田の評価、『日本国紀』という本は学術的な歴史書なのか、『殉愛』騒動について思うこと、重版ごとの修正やコピペ批判への見解、である。
インタビューは大前提として百田尚樹という作家を見城がどう捉えているのかを聞くところから始めた。
――見城徹の目から見た作家・百田尚樹の評価は?
「百田さんの小説は読みやすいと言われるけど、単純ではない。裏打ちとしてあるのは彼の文章学であり、人間に対する見方、考え方だ。それをエンターテインメントに落とし込んで、かつ人の心に染み込むように書けるというのは、並の作家ではできない」
その上で、と見城は続ける。この見方は本質的である。
「事実とフィクションを混然とさせながら書いていくのもうまい。シーンを想起させる文章も、人が食い付くように書くのもうまい。全部計算して書いている。だから売れる。視聴率の取り方をものすごくよく分かっている」
――では、『日本国紀』をどのような本として認識しているのか。
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