米ドル安誘導の予測、通貨切り下げ競争も排除できず

ニューズウィーク日本版 / 2019年7月18日 18時4分

<「強いドル政策」はかなぐり捨てて、再選のために動く可能性>

ドナルド・トランプ米政権がドル安誘導をする可能性をほのめかしている。過去4つの政権が支持してきた「強いドル政策」を捨てるというのだ。

トランプは以前から、中国やEU(欧州連合)などが意図的な通貨安でアメリカに輸出ドライブをかけていると声高に非難してきた。そのトランプがドル安誘導も辞さない姿勢に転じたのは、自ら世界の国々に仕掛けてきた貿易戦争の煽りで停滞している米経済の成長を後押しするのが狙いだろう。

政治的な得点稼ぎのためにドル相場を押し下げたいというトランプの考え方は、何も新しいものではない。複数の報道によれば、トランプは7月に入ってから側近に対して、ドル安誘導の方策を探せと命じた。2020年の大統領選前に景気を押し上げ、再選の可能性を高めるためだ。

トランプは7月3日のツイートで、中国と欧州は「為替操作ゲーム」に興じていると非難し、アメリカもそれに対抗すべきだとの考えを示した。

「何でもあり」の雰囲気

世界的な債券運用会社ピムコは、トランプは今後ドル安誘導に突き進むだろうと確信している。同社のマネージング・ディレクター兼グローバル経済アドバイザーのヨアヒム・フェルズは、トランプやトランプ政権の高官たちは、ドル安への関心を公言してきたと指摘。このことは、連邦政府が今後、為替市場に介入しかねないことを示唆していると彼は言う。

「主要な貿易国・地域の間でみられる通貨の冷戦は、2018年のはじめから休止状態だったが、いま再燃しつつある」とフェルズは指摘。さらに投資家に対するリポートには、こう書いた。「アメリカをはじめとする主要国の政府や中央銀行が、自国通貨の価値を引き下げる直接介入に踏み切って本格的な通貨切り下げ戦争にエスカレートする可能性は短期的にはないものの、もはや完全には排除できなくなった」

ゴールドマン・サックスおよびバンクオブアメリカ・メリルリンチのストラテジストも、政府による市場介入のリスクは低いが「高まりつつある」と指摘。ゴールドマン・サックスのアナリストたちは、「トランプ大統領の通商政策にはこれまで何度も驚かされてきたので、市場は『何でもあり』の雰囲気になっている」と言う。



「政府による為替介入は市場を歪めるとタブー視された時代もあったが、先進国の中央銀行はこのところ、ゼロ金利や量的緩和など非伝統的金融政策を積極活用するようになっており、為替介入にも抵抗が少なくなっている」と、ゴールドマンのアナリストらは分析した。

バンクオブアメリカ・メリルリンチのG10外為ストラテジストであるベン・ランドールは、トランプと財務当局らはこれまで何度か、為替介入の可能性を匂わせる発言をしてきたと指摘する。

「米ドルは長期的な均衡レートに比べて約10%かそれ以上、割高になっている」とランドールは言う。だが彼は、トランプ政権が為替介入によるドル安誘導にまで踏み切るとは考えない。20カ国・地域(G20)首脳会議の参加国の間に、為替の急激な変動がない限り単独での市場介入は行わない、という合意があるからだ。

ランドールは、ドル安誘導のリスクは無視できないとしつつも、トランプは「口先介入」にとどまる可能性の方が高いと予想する。

(翻訳:森美歩)


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アーサー・ビラサンタ

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