「日本人は100年後まで通用するものを作ってきた」...「失われた何十年」言説の不安がもたらした文化への影響とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月9日 10時45分
しかし、昔の対位法や和声法のような音楽学校的なややこしい教育をすっ飛ばしても、テクノロジーの力で作りたいものを作れるようになっていますからね。実際、ゲーム音楽はクラシック音楽よりもお金になりますし。
昔ならシナリオライターや劇作家を目指したような人が、今はゲームの台本を書く方向に移ってしまっている気がします。才能のある人たちが文芸の領域に行かない。
以前なら映画やテレビドラマの脚本執筆、作曲、美術を目指したような人も、ゲーム産業などお金のあるほうにシフトしていると思うんです。昔はあれほどみんなが小説を書いていたのに、最近の芥川賞などを見ると、文芸作品を書く人たちはどこに行ったのかという感じです。
田所 多分ラノベを書いたり、漫画を描いたりしているのだろうと思いますね。
片山 そうでしょうね。戦後は日本の現代文学といったら綺羅星のごとく作家が並んでいました。文学にのめり込み、人間や社会を突き詰めて考えるようなモチベーションが下がっている時代ということかもしれません。それでもタレントはいつの時代も必ずいるので、別のところにシフトしているのでしょう。
三浦 一番大きい問題はメディアの変化ですよ。朝起きて最初にやることが、パソコンの前に座ってメールを確かめること。しかも、それが普通になったのは21世紀になってからです。そういった大変化にどう応えるか、どう動くかということが、今もまだわからない状況にあるということではないか。
暫定的にであれ座標を描いて、「ここにこういうことがある。ここにこういう人がいる」と位置づけてゆくようなエディターシップを発揮する存在がいなくなった、社会や世界を展望するような視点がなくなったわけです。
今、「昔は綺羅星のごとく作家が並んでいた」と片山さんが言われたけれど、その根源を探っていくとマルクス主義の存在が大きい。宗教なみに明瞭な未来像というか一種の予定表、一種の地図を提供していた。
詩人も作家も評論家も、批判するにしても見取り図があったほうが話は早い。誰もが座標軸を与えられ、自分がどこにいるかわかっていたつもりだった。各種の日本文学全集もそのノリで作られていた。
そういう、1950年代、60年代にはあった、マルクス主義の存立基盤が、社会主義の崩壊でなくなってしまった。1989年の天安門で何が起こったか。80年代末から90年代初頭にソ連で何が起こったか。そういったこと全部が関連するし、非常に興味深いことに、それはパソコンやスマホの普及とも陰の部分で連動しているということです。
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