AIと人間を隔てるのは「身体性」...コンサートホールで体を震わせることこそ「人間的」だと言える理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月9日 10時55分
片山杜秀 + 三浦雅士 + 田所昌幸(構成:置塩 文) アステイオン
<「内面の自由」が保証されて、ネットの世界で楽しければそれでいい、と考える人が増える中で論壇誌が果たすべき役割とは──>
中編:「日本人は100年後まで通用するものを作ってきた」...「失われた何十年」言説の不安がもたらした文化への影響とは? から続く
『アステイオン』創刊と同じ年に誕生したサントリーホール。1986年とはどのような時代背景だったのか。音楽評論家の片山杜秀・慶應義塾大学教授と舞踊研究者で文芸評論家の三浦雅士氏にアステイオン編集委員長の田所昌幸・国際大学特任教授が聞く。『アステイオン』100号より「1986年から振り返る──サントリーホールと『アステイオン』の時代」を転載。
◇ ◇ ◇
「個人の自由」と「"内面"の自由」
田所 「失われた何十年」のその次が立派な良い時代になるかどうかは分かりませんが、歴史がもう1つ展開し始めたというのが、われわれ国際政治学者の一般的な認識です。
問題は中国です。少し前に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版)(1)という面白い本がありました。中国論のようでありつつも、人類全体が直面している問題を提起しています。
中国は、極めて抑圧的だけれども、デジタル全体主義を過去2、30年間、少なくとも現段階まではものすごくうまくやってしまった、と。私はいずれ破綻するとは思うのですが、あのような形で世界を合理化していく共産党の統治が成功するとオルタナティブな世界像が今の時代に再びワーッと出てきてしまう。
中国についてもう1つ言うと、今私が教鞭を執っている大学に来ている途上国からの学生は、中国が好きです。「中国みたいになれたらいい」と言います。
「どうやって自国が豊かになるか」「どうやって自国の軍隊をもっと強くするか」ということが何より大事なら、「欧米のように "民主主義だ、人権だ" とがたがたうるさいことを言うことなく、ポンといろいろなものをつくってくれて、それでGDPが増えるならいい」というのが、グローバルサウスのエリートたちの世界観です。
三浦 ある種、階級社会を自明とするような世界観ですね。
田所 彼らのルサンチマンは判る部分もありますが、フランシス・フクヤマではないけれど、イデオロギーが終焉してしまって、保守二党論が語られる一方で、共産党一党独裁の下で豊かさが実現された時代に、孤独な個人はどうやっていくのかという、別の課題が、今の中国の姿を見ていると強く問われているように、私には思えますね。
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