ハリス氏惨敗の背景に「アメリカ中流階級の生活苦の悲鳴」が聞こえる
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月8日 13時0分
ジョシュア・レット・ミラー(本誌記者)
<民主党はなぜ敗れたのかー。経済指標は良好で、株式相場も絶好調とバイデン政権は自画自賛していたが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くの庶民に実感はなかった>
ミネソタ州グランドラピッズで生活する5人家族の母親、クリスティン・マディ(44)は、少しでも出費を切り詰めるために安売り店で買い物をし、旅行に行くのも控えている。食品価格の上昇を乗り切るために、ニワトリやガチョウやカモも飼い始めた。
マディは看護師として「立派な給料」を受け取っていて、夫のライアンも重機操縦の職に就いているが、一家の暮らしはギリギリだという。ところが、相次ぐ利上げによりインフレが沈静化し、景気が冷え込むことなしにアメリカ経済がソフトランディング(軟着陸)に成功するという見通しを示す人たちもいる。
ジョー・バイデン米大統領もその1人だ。8月半ばには、新型コロナのパンデミックとロシアのウクライナ侵攻をきっかけに急速に進行したインフレを克服できたと思うかと尋ねられて、こう述べている──「ソフトランディングできそうだ。私の政策は効果を発揮しつつある。そう書いておいてくれよ」。
マディはこの主張に真っ向から異を唱える。「現実が全く見えていない。私たち夫婦の給料は合計で年間17万5000ドルくらい。出費はどうにか賄えるけれど、手元にお金は全く残らない」
インフレの影響はあまりに大きいと、マディは言い切る。「今まで買っていたものが2倍、3倍に値上がりしていて、危機感を覚える」
ペットショップを経営するジョン・オルセンは、バイデン政権の「明るい景気見通し」を全く実感できないという COURTESY OF JOHN OLSEN
コロナ禍以前は、中流であるマディ一家の経済状況は安定していて、よくデパートに買い物に行き、いちいち値札を確認せずに買い物をしていた。今は「買い物の仕方がすっかり変わってしまった」と、マディは言う。
「娘の誕生日のための買い物も1ドルショップで済ませている。昔は、こんなときは(大手スーパーの)ターゲットやパーティー用品のお店で買っていたけれど、それはもう無理になった」
食品も近所の食品スーパーでは買わなくなったという。安売り店でまとめ買いをするようになった。大手スーパーと比べると、価格が3割くらい違う場合もあるからだ。
「ストレスはとても大きい」と、マディは語る。「以前と同じようには買い物ができなくなったし、最近は旅行にも行けなくなった。生活のいろいろな局面で倹約と貯蓄を考えなくてはならない。クリスマスの過ごし方も様変わりしてしまった」
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