ハリス氏惨敗の背景に「アメリカ中流階級の生活苦の悲鳴」が聞こえる
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月8日 13時0分
26歳の息子ジャックの暮らしも、ゆとりがあるとはとうてい言えない。海軍を除隊し、今は警察官として働くジャックは、出費を賄い、住宅ローンを返済するために、週に80時間働くこともあるという。
「いつも決まって中流層が一番損をする」と、マディは語る。
「政府による支援プログラムの受給対象には当てはまらず、そうかといって生活苦を感じずに済むほどの収入もない。日々の食料品を買えないという心配はないけれど、かなりあくせく働かなくてはならない」
DEB COHN-ORBACHーUCGーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES
日々の生活の苦しさを訴える人たちがいる一方で、アメリカの株式相場は目下、絶好調と言っていいだろう。今年5月には、ニューヨーク株式市場でダウ平均株価が史上初めて4万ドルを突破した。
こうした株価の上昇を受けて、大企業のトップたちは、庶民には想像もつかないような巨額の報酬を受け取ることが可能になっている。
アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)が8月に発表した調査によると、アメリカの代表的な株価指数「S&P500」を構成する企業のCEOが昨年1年間に受け取った報酬は、平均的な働き手が5回以上の勤労人生を送らなければ稼げない金額に達しているという。
例えば、スターバックスのCEOを退任したばかりのラクスマン・ナラシムハンは、1400万ドルを超す報酬を受け取っていた。これは、2023会計年度に平均的な働き手が受け取る給料の1028倍に上る。
しかし、後任のブライアン・ニコルはさらに上を行く。9月9日にスターバックスのCEOに就任したニコルは、1年目だけで1億ドル以上を受け取る可能性がある。成果に連動して報酬が決まる面が大きいためだ。
政府の楽観論に抱く違和感
インフレ脱却をめぐるバイデンの楽観的な発言に、こうした途方もない格差の存在が合わさって、多くの中流層は政府との間に大きな断絶を感じていると、マディは指摘する。
看護師のクリスティン・マディも、バイデン政権の「明るい景気見通し」は全く実感できなかった COURTESY OF CHRISTINE MADDY
「現政権から無視されているという思いを抱いている」と、マディは言う。
「経済は堅調だという政府の言葉を聞くと、突き放されたように感じる。そうした主張は、私たちが日々の生活の中で体感していることと全く違う」
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