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スポーツでの脳震盪が「鬱や自殺」に繋がることも...選手の脳を守る「血液検査」の可能性

ニューズウィーク日本版 / 2024年12月25日 15時26分

問題は、プロの選手だけにとどまらない。ダートマス大学のアメフトチームで活躍していたパトリック・リシャ(Patrick Risha)がいい例だ。「私たち家族は2014年、パトリックを自殺で失った」と語るのは、母でパトリック・リシャCTE啓発財団(Patrick Risha CTE Awareness Foundation)の代表を務めるカレン・ジーゲルだ。

「当時は自分たちが抱えている問題の正体が分からなかった。息子には鬱やADHD(注意欠陥・多動性障害)、依存の問題、不安、睡眠障害の明らかな症状があったが、スポーツをやっていたせいだとは思いもしなかった。CTE(慢性外傷性脳症)のことも、脳を調べたほうがいいと言われて初めて知った」

青春を懸けたスポーツが命取りになったパトリック・リシャ(高校時代の写真) COURTESY OF KAREN ZEGEL

アメリカを代表する医療機関であるメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)の定義によれば、CTEは「繰り返し受けた頭部外傷が原因となった可能性の高い脳障害で、脳の神経細胞の死(変性)を引き起こす。確定診断の方法は死後の解剖のみ」という疾患だ。

死後に判明するケースが相次ぐ

脳が損傷を受けるのはプロかアマかを問わない。NFLの偉大なランニングバック(RB)だったトニー・ドーセット(Tony Dorsett)はかつて、記憶障害や感情の爆発といった問題を抱えていて、これらはCTEの症状かもしれないと語ったことがある。

11年の夏には、NHLでエンフォーサー(乱闘で活躍する選手)として知られていたデレク・ブーガード(Derek Boogaard)ら3人が相次いで急死し、いずれもCTEだったことが判明した。20年に死亡した米サッカー選手のスコット・バーミリオン(Scott Vermillion)も、死後にCTEと診断された。

「パトリックが脳震盪の診断を受けたことはなかった」と、ジーゲルは言う。「アメフトや脳震盪に関して、弱音を吐いたこともない。でも結局は生き続けられないほど、苦しみに耐えられないほどに脳を破壊する病気を背負い込んでしまった」

「人類には3つのフロンティアが残されていると思う」と、リシャの義父ダグ・ジーゲルは本誌に語った。「深海と深宇宙、そして人間の脳だ」

より簡便で正確な検査技術の開発が急ピッチで進む AP/AFLO

だが状況は変わりつつあるのかもしれない。米食品医薬品局は18年2月、外傷性脳損傷を診断するアメリカ初の血液検査を認可した。今年4月にアボット・ラボラトリーズが発表した持ち運び可能な機器なら、患者のベッドの脇に運んで使用できる。

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