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『レ・ミゼラブル』の楽曲を「歩格」で見てみると...楽譜と歌詞に織り込まれた「キャラクターの心」とは?

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月10日 17時26分

ここで、ちょっとリズムだけでない、「しらべ」をつくる「音」のはなしもついでにしておきたい。2行目の「目eye」と4行目の「死ぬdie」は脚韻をふんでいる。

脚韻は調べを整えるためにも用いられるし、同じ脚韻の単語どうしがなんらかの意味のふくみをもつこともある。この4行ではそのふくみはみえない。

また、繰り返される"down"という言葉の響き(d やwn)は、その意味「下へ」のイメージもあいまって、下に向かうような重たさがある。さらには、"down"のイメージが、「ここhere」という場所、そして「死ぬdie」という土の下の世界へと結びつく。

"down"と"die"は頭韻(ダという音)も踏んでいるため、響きのうえでも結びつきを強めている。

音楽をみてみよう(譜例6)。

"down"が強い音なので、音楽では頭拍がこの"down"に置かれ、第1音節の"Look"は、弱い音のため、小節の手前におかれるアウフタクトになる。さらに作曲家は、この"down"の重さを表したかったのだろう、1拍ではなく、付点4分音符の1拍半に引き延ばされている。

(中略)

しかし、旋律をみると言葉のイメージとはどこか合っていない。「下に」と言いながら、音は上に向かっている。もし言葉のイメージと音楽をあわせるなら、"down"と歌うたびに音程をさげたほうが理屈にあう。

それでは、これは何を表すのか。「下を向け」といいながら、音楽は上を向いている、それは彼らが決して屈してはいない、ということである。言葉と旋律の結びつきは、たとえばこのようなところからも見えてくる。

信じがたい、という疑い深い人のために、同じナンバーの別の詩行をみてみよう。ジャベールがジャン・ヴァルジャンを呼ぶところだ。

まず、ジャベールの1行目、数字を読み上げるところは、すでにイレギュラーないびつなリズムになっているが、それ以外は基本的にイアンブス格でできている。わたしとしては、最後の"means"が弱い音になっているところが気になるところで、ぷつっと言葉を切ってしまうような、吐き捨てるような印象をあたえる。

楽譜はどうだろうか。これまた異様な音符のならびだ(譜例7)。

まず、最初の強い音は1拍目になる、という期待を裏切られる。(中略)みえにくいが、いちおう表拍にあたる音は、強い音になっているから、リズムはあっている。

しかし、弱いはずの"now"や"your"、"you"のほうが強い音に聞こえてくる。軍隊のかけ声に似た、命令口調とでもいったらいいだろうか。そして、上から下へ4度跳躍してさがる音程だけでできている。旋律を使うなど、この囚人たちにはもったいない、といわんばかりである。

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