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「偽情報・誤情報」研究が直面する5つの課題

ニューズウィーク日本版 / 2024年12月29日 7時38分

また、ナラティブやプロパガンダには「偽」や「誤」の要素のないものがある。偽・誤情報ではないものも同じように攻撃に利用されている以上、偽・誤情報だけを特別扱いする必要はないはずだ。

「偽・誤情報」の問題の本質は「偽」や「誤」にはない、と考える方が妥当だ。なぜか多くの専門家は、「偽」や「誤」の要素のないものも偽・誤情報対策の反中に入れることでこの議論を回避している。特に、真偽判定を重要な課題と考えている日本の一部の官公庁にとっては絶対に回避しなければならない話題だ。

課題2 偽・誤情報問題は政治的である

アメリカでのこの分野の研究の後退と、研究機関や研究者へのバッシングが示すように、この領域の研究は政治的な問題とは切り離せない。共和党を中心とする右派によって多くの研究が阻害された。

また、逆に予算が集まりやすく、政治的に優先されるテーマは研究が進みやすくなる。このテーマはIT、医療、経済、人種、宗教、教育、軍事など他方面に関係しており、政治的な利用がしやすい。偽・誤情報問題は高度に政治的問題なのだ。

また、研究者の多くは政治とは離れた中立的な立場で研究を行おうとしているが、予算、データの入手、その後のキャリアなど政治的な問題が山積みなのである。

冒頭に書いた、「効果についてはともかくとして、記録を残すという意味でやる意義はあると思います」という回答は、当該省庁の施策を言外で支持している。

繰り返しになるが、その方のことを非難するつもりは毛頭ない。そもそも「効果が検証されていない対策をなぜ行うんでしょう?」という質問自体もきわめて政治的と言うこともできる。

課題3 因果関係の立証は困難

偽・誤情報の問題は複雑であり、因果関係を証明することが難しい。その理由は大きく2つある。

1.多くの研究は行動にいたるまでを調査しておらず、態度や信念までに留まっている

しかし、信念から行動までは大きな隔たりがある。そのため反ワクチン陰謀論とワクチン摂取率の関係も立証は難しい。2021年の最初の3カ月の間、フェイスブック上でもっとも読まれたワクチン関係の投稿は、偽・誤情報ではなく、健康な医師がワクチン接種後に死亡した記事だった。もちろん、これは偽・誤情報ではない。

2.測定、評価方法の問題

ピザゲートでの事件では、数百万人が陰謀論に接触したが、レストランに銃を持って現れたのはひとりだけだった。統計的には数百万分の1ということになる。確率的には無視してよい数だが、社会問題としては無視できないだろう。

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