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「臓器を摘出」する予防法も...がんは「治す」から「防ぐ」時代に、新たな医療アプローチ「VBC」とは?

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月23日 17時44分

より若い世代は幼少期から多くの発癌物資にさらされてきたと考えられると、この論文は指摘している。実際、アメリカの家庭の冷蔵庫には加工肉や合成着色料入りの食品など、多くの発癌物質が常備されている。

アメリカではこれまでも癌予防運動が精力的に展開されてきた。たばこのパッケージには警告表示があるし、乳癌啓発月間にはピンクリボンをあちこちで見かける。米政府は2047年までに癌で亡くなる人を400万人超減らす「癌ムーンショット」イニシアチブを推進している。

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ただ、呼び声は高いものの、効果はいまひとつだ。癌予防財団が昨年1月と2月に実施した最新の調査によると、10人中7人近くのアメリカ人が定期の癌検診の少なくとも1つを期限までに受けていないという。

MSKのアイエンガー(写真中央)らは癌患者との話し合いを通じて生活習慣の改善を目指すプログラムを推進中 COURTESY OF MEMORIAL SLOAN KETTERING

アメリカの多くの医療機関が、病気になってからではなく、なる前に手を打つ予防医療に重点を移しつつある。これは医療コストを抑えつつ患者の症状や生活の質の改善を重視する「価値に基づく医療(value-based care, VBC)」と呼ばれる新しいアプローチだ。

癌は予防効果が高い疾患だから、予防医療に軸足を移すなら癌から始めるのが得策だろう。だが問題は「予防に取り組んでも収益につながらない」ことだとラトナーは語った。

本誌は独自に行った最新の格付けで全米トップの癌専門病院と判断した2つの病院、テキサス大学MDアンダーソン癌センターとMSKの専門家たちに話を聞き、専門性の高い医療機関が予防医療にどう取り組んでいるかを探った。

これはなかなか厄介な課題だ。MDアンダーソンはテキサス州、アメリカ、さらには世界から癌をなくすことを使命としているが、癌がなくなればMDアンダーソンは存続を脅かされる。

それでも、経営者のピーター・ピスターズは、MDアンダーソンを「予防機関」にしたいと考えている。「癌がなくなって廃業に追い込まれるなら、それが本望だ」というのだ。そのためには一般の人々と保険会社など医療費の支払者の意識が大きく変わる必要がある。

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高リスクの集団に重点を置く

地域の総合病院が予防医療に取り組む場合は、対象がはっきりしている。こうした病院が医療サービスを提供する地理的な範囲は明確に線引きされていて、救急搬送される患者数などから重点地区もピックアップしやすい。

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