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「臓器を摘出」する予防法も...がんは「治す」から「防ぐ」時代に、新たな医療アプローチ「VBC」とは?

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月23日 17時44分

これらを実践できていれば、「その人は大多数の(癌の)リスクが軽減されていると見なせる」とのことだ。

もちろん、こうした予防策を全て実践しても癌にかかる人はいる。それでもアイエンガーによれば、健康的な生活習慣を実践している人はそうでない人に比べて、癌の診断を受けた後にたどる経過が良好だという。

生活習慣改善の大きな効果

MSKの「ヘルシーリビング・プログラム」では、新規の癌患者に質問用紙を配布し、運動習慣や仕事のスケジュール、経済状態などを含む生活状況を詳細に尋ねる。それに基づいて、栄養士などの専門職の支援を受けつつ、患者ごとの生活習慣の改善プランを作成する。

もっとも、癌の診断は患者の精神に極めて重くのしかかる。アイエンガーによれば、MSKでは生活習慣の改善プランで患者に過度な負担をかけないよう留意している。「忙しかったり疲れていたりしてプランどおりの生活を送れない場合は、プランを実践可能なものに修正する」

このプログラムで生活習慣の改善に取り組む患者は、力が湧いてきたように感じる場合が多いと、アイエンガーは言う。先行きが不透明な状況で、少なくともこの面では自分で物事をコントロールできていると感じることができるからだ。

人々の健康状態がよくなれば、医療システムにとってもコストの削減という恩恵がある。癌患者が生活習慣を改善すれば、救急搬送されたり、治療開始が遅れたりする確率が下がり、医療費の支出が少なくて済む。

近年、多くの医療機関が予防重視の医療の有益性を認識し始めている。前出のVBCという新しい考え方でも、予防に重きが置かれる。

このアプローチが具体的にどのようなものかは、糖尿病を例に考えると分かりやすいと、MDアンダーソンのピスターズは言う。既存のモデルでは、医師は糖尿病患者に食生活の改善を指導し、薬を処方する。この診療行為に対して医師は報酬を受け取り、その後、患者がどのような経過をたどるかは報酬に関係しない。

それに対してVBCでは、四肢切断、心臓発作、失明など、糖尿病による合併症を抑えることにより、医療機関は報酬を得る。医療機関は、特定の患者集団の合併症を一定の範囲内に抑えることが期待され、その目標の達成度によって報酬が決まるのだ。VBCは「素晴らしい考え方」だと、ピスターズは言う。

ピスターズによれば、癌治療の一部の領域ではVBC的な発想をもっと強化する余地がある。確かに、テキサス州の住民の70%近くが過体重もしくは肥満の状態であることを考えると、人々の食生活と運動習慣を改善すれば、健康リスク全般を引き下げる効果が大きいかもしれない。

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