1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月30日 19時41分

この分野の進歩は驚異的だ。ある意味で進歩しすぎたと言えなくもない。

全ての遺伝情報を読み取る全ゲノム解析(WGS)は、特定の希少癌患者にとっても希望の星だ。最終的には万人のための個別化医療につながると、専門家は考えている。

しかし高額な費用と規制のせいで、利用は依然として限定的だ。一方で、この手法に疑問を持つ専門家もいる。現時点で解析可能なのは、WGSから得られるデータの2%程度だ。

癌治療のパラダイムシフト

「ダークゲノム」と呼ばれる残りの98%を調べることで、不治の病だった病気の治療法が見つかるかもしれないと、専門家は言う。だが、そのためには膨大なリソースが必要だ。

MSKの計算腫瘍学者エリー・パパエマヌイルによると、癌はゲノムの病気だ。ゲノム、つまり生物に含まれる全ての遺伝物質を調べることで、特定の癌の原因や治療法の手がかりを集めることができる。

治療の切り札となったゲノム解析のシステム RENAE WHISSEL

ヒトの細胞にはDNA(デオキシリボ核酸)の「完全なセット」が含まれていると、パパエマヌイルは言う。DNAには、細胞が体を正常に機能させるための指令が書き込まれている。

DNAの変異によって乳癌のリスクを高めるBRCA遺伝子など両親から受け継いだ変異もあるが、加齢に伴う自然なDNAの変異や、医師たちが人体への「圧力」と呼ぶ喫煙などによって生じるものもある。

変異したDNAは細胞に誤った指示を与え、細胞は通常と異なる行動を取る。このような細胞が増殖し、体を乗っ取ることで癌が発生する。

最新のゲノム解析を用いれば、細胞レベルの変化を正確に特定できる。それを正常に戻す治療法をピンポイントで適用できる場合もある。

専門家が癌の変異を解明するためには、基準点となる「DNAのコードブック」が必要だったと、パパエマヌイルは言う。最初の挑戦は容易ではなかった。

人間のWGSを目指すヒトゲノム計画には約13年の歳月と30億ドルの資金、6カ国にまたがる20の大学や研究機関の頭脳が投入された。2003年に公表された「完成版」は、癌や希少疾患研究における新時代の基礎となった。

それから20年以上がたち、ゲノム解析は大きく進歩した。患者のDNAを丸ごとスキャンできる技術が開発され、癌の原因となる最も一般的な「変異のカタログ」が作成された。これによって、より精密で個別化された癌治療が可能になった。

ウルフの診断に使われた検査法MSK-IMPACTは15年に登場した。「癌(治療)におけるパラダイムシフト」だったと、パパエマヌイルは振り返る。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください