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【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月30日 19時41分

MEMORIAL SLOAN KETTERING CANCER CENTER

「『この先10年で第1選択となる信頼に足る検査はどれか』と聞いたら、ほとんどの癌専門医がWGSと答えると思う」と、コングは言う。

「だが実際にそうなるには、複数の条件を満たさなければならない」

課題の1つが費用だが、WGSのコストは大きく下がっている。米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)によれば、02年当時、1つのヒトゲノムを解析するには1億ドル近い費用が必要だった。

だが本誌が取材した専門家の多くによれば、現在のWGSの費用は合計で7000~1万ドル程度。標準的な検査になるには高いが、癌の検査費用として飛び抜けて高いわけではないとコングは言う。

シーケンサー最大手のイルミナ社で最高技術責任者を務めるスティーブン・バーナードは「費用(の下がり方)は技術の進歩と直接的な関係にある」と本誌に語った。

同社の高性能シーケンサーなら、解析コストは数百ドル程度に抑えられるという。

一方でNHGRIによれば、ゲノム解析の急速な普及に伴い、今年は約40エクサバイト(約400億ギガバイト)のデータを保存する必要が生じるとみられる。

これだけ大量のデータを保存し、解析するには多額の費用がかかるが、WGSに批判的な人々に言わせれば、その大半が不要なデータだ。

「データ量があまりに多く、専門医が必要とする答えを出すのに時間がかかりすぎる可能性がある一方で、求められていないような他の要素が特定されてしまうのではと懸念する人もいる」と、ニューヨーク大学のイミエリンスキは言う。

WGSは患者の不安の種になるような情報まで大量にもたらしかねないと、カナダのニューファンドランド・ラブラドール州立メモリアル大学医学大学院のブレンダ・ウィルソン副学長も警告する。

「それを知ったところで何もできないような情報は(患者に)提供すべきではない」

パパエマヌイルは違う考えだ。「私が癌患者なら、『あなたのゲノムの1%を見たが、手の施しようがないようだ』と言われるより、『全てを見たが、今できることは見つからなかった』と言われるほうがいい」

FDAの認可が大きな障壁に

とはいえ、特にアメリカでは、WGSの普及には当局の規制という障壁が立ちはだかる。分子レベルの検査には米食品医薬品局(FDA)の認可が必要だが、現在の方式はWGSの検査には使えそうもない。

遺伝子検査では、もともと1回の検査で1つの変異を調べていた。

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