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【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月30日 19時41分

だから最初の頃の検査では、そのほんの一部のゲノムに照準を合わせたわけだ。

また、MSKの病理・臨床検査部長で、ソリットと共に分子腫瘍学センターの共同所長を務めるマイケル・バーガーは、当時は解析とデータの保存にかかるコストが高すぎてWGSには手が出せなかったと語る。

ソリットによれば、癌治療のプレシジョン・メディシンにおいて標準的なNGS検査が標準的な選択肢となるのは、ゲノム解析を受ける患者の約3分の1だ。残る3分の2の患者には役に立たない。

その患者の遺伝子変異を標的にする薬が存在しないか、分析対象の幅が狭すぎて変異を見つけられないからだ。

小児癌の治療にも熱い期待

だがWGSなら、残る3分の2の患者を救える可能性がある。パパエマヌイルの研究チームは、WGSを行った全ての癌患者で変異を見つけている。その約半数が治療法を見つけるのに役立つであろう臨床的に意味のあるバイオマーカーだった。

バーガー(写真)はソリットとともにMSKの分子腫瘍学センターの共同所長を務め、協力して研究を進めている RENAE WHISSEL

アドベントヘルスの中央フロリダ支部でゲノム・個別化医療の責任者を務めるウェズリー・ウォーカーによれば、WGSの有効性を特に期待できるのが白血病や肉腫、中枢神経系の癌、そして小児癌の分野だ。

MSKの小児科長アンドルー・コングも、子供の癌治療におけるWGSの可能性に期待を寄せる。例えば肺癌の変異を調べる一般的な検査は、子供にはほとんど役に立たないが、WGSなら深く掘り下げて調べることができる。

MSKではWGSは子供の癌患者に対する標準的な検査となっており、これまでに1000人近い小児癌患者のWGSを行ったという。

希少癌にかかったあるティーンエージャーの患者は、標準的な検査では「対処すべきものは何も」なかったのに、WGSでは「変異がたくさん」見つかったと、コングは言う。

その結果、選ばれたのが免疫チェックポイント阻害薬だ。3回の投与で患者の腫瘍は小さくなり始め、ついには姿を消した。再発も起きていない。「WGSのおかげで、他の技術では見つけられなかった効果的な治療法にたどり着くことができた」と、コングは語る。

セント・ジュード小児研究病院で血液病理学・分子病理学長を務めるジェフリー・クルコによれば、同病院では年に400~500人の患者を対象にWGSを行っている。

同病院は解析費用を病院側が負担しているアメリカで唯一の医療機関だ(フォーブス誌によれば、病院の経営は年間で25億7000万ドルに上る個人からの寄付で支えられている)。

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