【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月30日 19時41分
侮れない生命の謎の奥深さ
イギリス、デンマーク、ドイツ、フランス、スウェーデンなどは、国家的な事業としてWGSを推進している。
「スウェーデンで研究ができて幸運だ」と、国の助成を受けている研究機関ゲノミック・メディシン・スウェーデンのリカール・ブランデル代表は本誌に話した。
「この国では、ゲノム解析、プロテオーム(全タンパク質)解析、画像処理など、あらゆる高速処理技術に政府が投資し、生命科学のインフラが構築されている」
スウェーデンは人口約1000万人の小国で、大学病院は7つしかないが、希少疾患患者のWGSは8000件、癌患者の遺伝子パネル検査は約2万件実施されていると、ブランデルは言う。この国ではWGSにかかる費用は比較的安く、平均4000ドル足らずだ。しかも公的医療保険があらゆる検査に適用される。
今のところアメリカでは、小規模の病院でのWGSの実施はコスト面から困難だが、将来的には医療目的だけでなく一般の人たちの健康長寿のためにWGSが活用されるようになると、ウォーカーはみている。
冒頭のウルフはNGSのおかげで人生が変わったと話す。既に10年近く癌は再発せず、ジャズ演奏も再開している。
最近では息子たちと共に、マディソンスクエア・ガーデンで行われたシンガーソングライターのビリー・アイリッシュのライブで前座を務めた。だが仕事上の成功など二の次だと、彼は話す。
「あの治験に参加し、素晴らしい結果が出て、多くの人たちの役に立てたことが自分にとっては一番大きな意味を持つ」
ウルフの主治医ガウンダーは、今ではウルフのライブを聴きに行くが、医師としては尽きせぬ探究心とともに少しばかりの「健全な疑念」を持ち続けている。
「癌の生物学は複雑極まりない。私たちは上っ面をなで始めたばかりだ。よくある癌だろうと、非常に希少な癌だろうと、常に謙虚な気持ちで向き合わなければ」
彼によれば、その理由は単純明快だ。「生命と生き物は人間にはとてもかなわないほど賢いのだから」
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