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【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月30日 19時41分

ウルフの主治医で肉腫の専門医であるガウンダー ELLIOTT ATKINSON

MSK-IMPACTは、医療現場で使われている複数の次世代シーケンシング(NGS)検査の1つだ。

MSKの治療法開発部長・分子腫瘍学センター共同所長のデービッド・ソリットによれば、NGS検査の登場以前は、変異ごとに固有の診断用検査が必要だったため、希少な遺伝子変異に対応した新薬開発はコスト的に実現不可能だった。

だがNGS検査なら、一度に何百もの変異を調べられる。一定のパターンが見えたら、研究者は標的薬の開発に着手できるようになる。こうした治療薬はこの5年間に急増していると、ソリットは本誌に語る。

これまでにMSK-IMPACTのゲノム解析を受けた患者は1万6000人を超える。「今では大きな癌の病院では常識になった」と、パパエマヌイルは言う。

とはいえ、解析の度合いとしては表面をなぞっている程度だ。

標準的なNGS検査が映画の特に重要な場面だけを見ているようなものだとしたら、WGSは映画を初めから終わりまで200回も見るようなもの。

パパエマヌイルによれば、標準的なNGS検査であれば、患者の腫瘍について何らかの意味のあるデータポイントが2~3件見つかるかもしれないところが、WGSなら1万5000件も見つかる可能性がある。

「取りこぼしがどれほどあるかよく分かる」と、パパエマヌイルは述べた。

「多くの患者がプレシジョン・メディシン(の一環)として遺伝子検査を受けている。最終的に何も見つからなかったとしても、それは腫瘍が変異していないからではなく、その患者の腫瘍の変異を調べられるような検査でなかっただけ、というケースもあるかもしれない」

NGSでは治療法が見つからなかった患者もWGSで救われるケースがあると、ソリットは話す RENAE WHISSEL

既存の治療法では治せない希少癌や転移が進んだ癌であっても、WGSで新たな治療の選択肢が見つかることもある。

NGS検査は多くの場合、乳癌や大腸癌、前立腺癌や肺癌といった一般的な癌を対象に作られており、使えない患者が3~4人に1人はいるとパパエマヌイルは言う。

ではなぜ、専門家たちは最初からWGSを使おうとしなかったのか。

ニューヨーク大学ランゴン医療センターのパールマッター癌センターでゲノム研究プログラムの責任者を務めるマルチン・イミエリンスキによれば、当初の研究では治療の標的とすべき主要な変異が見つかるのは全ゲノムの約0.1%にすぎないと考えられていたという。

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