【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月30日 19時41分
検査を行うたびに毎回FDAの認可を受けることも大きな負担になるが、ゲノム全域に及ぶ検査にこの方式を適用するのはどう考えても無理があると、イミエリンスキは指摘する。
現在、多くの病院はFDAの認可を受けずにWGSを実施している。
「ゲノム全域にわたってしらみつぶしに(変異を)調べるために、検査したいあらゆる要素を1つずつ厳密に提示するなんてことが可能だろうか」と、コングは問う。
WGSの安全性や有効性をどうやって審査するのか。コングによれば「これは途方もない難題だ」。
FDAは本誌の質問にメールで回答し、ラボ開発検査(LDT)に関わるリスクは数十年前と比べはるかに大きくなっていると、現状を説明した。
商慣行が変化し、今では大規模な検査センターがハイテク機器を使って全米から送られてくる検体を分析している、という。
FDAによれば、問題はその分析結果を参考にして「医療上の重要な決断」が下されることだ。
こうした検査は以前は地域レベルで特定の集団に利用されていたが、今ではより大規模かつ多様な集団に利用されていると、FDAは指摘する。
FDAは昨年4月の報道発表で、「精度、安全性、有効性、品質が基準に満たない可能性がある」検査が「多数」あることが分かったため、監視強化に舵を切ることにしたと説明していた。
当時のロバート・カリフFDA長官は「有用性が担保されていないのに、国民がこうした検査結果に頼る現状を放置するわけにはいかない」と強い口調で述べた。
この問題は保険の償還にも関わってくる。
今のところメディケア(高齢者医療保険制度)が適用されるWGS検査はただ1つ──セントルイスのワシントン大学医学大学院のエリック・ダンカベッジ教授率いる研究チームが開発した血液検査「クロムシーク」だけだ。
医療保険が適用されるにはFDAの認可が必要だ。
ダンカベッジらはクロモシークを実施すれば既存の検査よりも2割方多く医療に活用できる情報を入手できることを実証し、認可を勝ち取った。
しかし、極めて希少な癌の場合、こうした証拠を提示することは必ずしも容易ではないと、パパエマヌイルは言う。
「医療保険を支払う側は通常、その検査に臨床上の有用性があることを要求する。乳癌の治療に有用な検査だと証明したいなら、患者数も多く、治療方法も確立されていて、既存のデータもあるから、簡単に実験をデザインできる」と彼女は話す。
だが希少癌となると、そうはいかない。
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