絵本作家・田島征三 3日で辞めた広告代理店
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年11月16日 23時0分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(11月9日放送)に絵本作家の田島征三が出演。絵本作家になった経緯について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。11月8日(月)~11月12日(金)のゲストは絵本作家の田島征三。2日目は、絵本作家になった経緯について—
黒木)最初の仕事は、広告代理店を通して、クライアントから依頼された広告のイラストレーションを描かれたと伺いました。そのときに「これはうちの会社の宣伝ではない。あなた自身の宣伝だ」と怒られて3日でそのお仕事を辞めたというのは本当なのですか?
田島)大学のときに図案科にいたのです。当時はデザイン科と言わずに図案科と言ったのです。頑張って成績がよかったのです。当時、若いデザイナーは金の卵でしたからね。僕は3年生のときに実習生として広告代理店に引き抜かれたのです。
黒木)3年生のときに。
田島)名誉あることなのですが、そこへ行って最初に描いたポスターのイラストレーションが「会社の宣伝にはならない。君の宣伝をしているだけではないか」と言われたのです。これに対して僕は「なぜ、自分の宣伝をしてはいけないのだ。他人の宣伝をするためにデザイナーになったのではない」と言ったのだけれど、これは矛盾していますよね。そんな啖呵を切って学校に帰って来てしまったのです。
黒木)大学に戻ったのですね。
田島)主任教授がすごく親切な方で、「デザイナーには向かないね」と言ってくれて、「出版関係に進んだらどうかね」ということで、たくさん推薦状を書いてくれたのです。それがいまの僕の仕事につながっているのです。
黒木)誰かのため、お金のために描くのではなくて、「自分のために描きたい」という思いが強かったのですか?
田島)そうですね。お金を儲けようとか、売れる本を書こうとは1度も考えたことがないです。この絵が好きな子どもがどこかにいるはずで、その子が本当に大好きだと言ってくれれば嬉しい。あらゆる子どもに平等に面白がられる絵本などというのは、どの子にも面白がってもらっていないように僕は思うのです。でき上がったときに「こんな絵描いちゃった!」と驚くことができないと嫌なのです。
黒木)『ちからたろう』をこうやって拝見すると、小さな赤でできた赤ちゃんが金棒を持って「ドーン」と大きくなるではないですか。この迫力はご自分が満足する絵であるのですよね?
田島)そうです。このときは思い切り描きましたね。
黒木)この辺りに田島さんご自身が描きたいみたいなものが現れていて、いちばん象徴しているなというように感じました。
田島)このときは出版社に「これは汚すぎるから表紙だけでもツルツルにしてくれ」と言われました。結局、そうはならなかったのですけれども、「でこぼこしているからこれはやめてくれ」と言われたのです。出版されると、買うお母さんたちが、「こんなに汚い本をうちの子どもに見せたくない」という感じで最初は売れなかったのです。
黒木)最初は売れなかったのですか。
田島)ところが半年くらい経ったら、子どもたちのなかで「これは面白い」という声が出て来ました。金棒を持って立ち上がるようなところは、子どもの絵に近いですよね。そんなことで爆発的に当たったのです。
黒木)それで「金のりんご賞」をもらうのですね。
田島)外国でもらった賞ですから、日本の評価はあまり関係がないのですが、「受けた」ということで他の仕事もたくさん来ました。受けてしまったら、もっとメチャクチャな絵を描きたいという気持ちになるのです。
田島征三(たしま・せいぞう)/ 絵本作家
■1940年・大阪府生まれ。幼少期を高知県で過ごす。
■多摩美術大学図案科卒業。東京日の出町で、ヤギやチャボを飼い、畑を耕す生活をしながら絵画、版画、絵本などを創作。
■1965年、初めての絵本『ふるやのもり』を出版。
■1969年、『ちからたろう』で第2回ブラチスラバ世界絵本原画展・金のりんご賞を受賞。後に同展国際審査委員を務めるなど日本を代表する絵本作家として活動。絵画・絵本・イラストレーション・エッセイ・造形作品等を発表し続けている。
■1998年より静岡県伊豆高原に移住し、木の実との新しい出会いもあり、近年、木の実など自然の素材を使ったアートを本格的に展開している。
■2009年、新潟県十日町市の廃校になった小学校を丸ごと絵本にした『空間絵本』を制作。廃校となった小学校の校舎を再利用し「絵本と木の実の美術館」を開館した。
■2011~2018年、日中韓平和絵本プロジェクトに尽力。
■2013~2019年、香川県大島のハンセン病元患者の療養所で、『青空水族館』『森の小径』『Nさんの人生・大島七十年』を制作。
■傘寿を迎えた2020年、少年時の原体験をモチーフにした絵本『つかまえた』で、生きものの命と向き合った生々しい感触を躍動的に再現するなど、デビュー以来、半世紀以上にわたって常に斬新で意欲的な挑戦をし続けている。
■2021年「第56回ENEOS児童文化賞」を受賞。
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