「イギリスのTPP加盟」の意義は、日本が国際的ルールを主導していくためにも大きい
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年7月18日 17時35分
【G7広島サミット】サミットが閉幕後の記者会見を終え、退出する英国のスナク首相=21日午後、広島市中区
慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が7月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イギリスのTPPへの加盟について解説した。
後藤経済再生担当大臣がイギリスのTPP加盟を歓迎
環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟する日本やオーストラリアなどの11ヵ国は7月16日、ニュージーランドで閣僚級会合を開き、TPPへのイギリス加入を認める協定に署名し、正式に承認した。会合に出席した後藤経済再生担当大臣は「イギリスの加入はインド太平洋地域、及びそれを越えた自由で公正なルールに基づく貿易システム・経済秩序の推進における協力を深める」などと話し、イギリスの加入を歓迎した。
飯田)2018年にTPPが発足してから、新たに参加するのはイギリスが初めてです。地理的なところも越えてきたという話がありますが、細谷さんはどうご覧になりますか?
細谷)経済的な枠組み自体なら、例えば「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」があり、これにはアメリカとインドが入っています。また「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」は中国が入っている枠組みです。
中国の経済的な威圧に対してTPPのような経済的な枠組みは効果的 ~国際的なルールを主導していくためにもイギリスが加わる意義は大きい
細谷)しかし、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」の意義は、むしろ規模ではなく、政治的な意味だと思います。経済枠組みを使った、北大西洋条約機構(NATO)に似たものであり、中国からの経済的威圧……日本もレアアースに関して、2010年に尖閣諸島問題をめぐって圧力を掛けられましたが、こういった個別的な国をターゲットにした中国の経済的な威圧に対し、CPTPPのような経済的な枠組みは効果的だと思います。
飯田)中国の経済的威圧に対して。
細谷)そこにイギリスが入る意味ですが、イギリスは世界全体の国内総生産(GDP)のなかでは、全体の15%程度であり、それほど大きくはありません。一方で政治的なインプリケーションとして、これらの国々が国際経済のルールを主導していくという意味では、日本が中心になり、イギリスも加わって進めていく。その意義は大きいと思います。
共通のルールを設定するTPP
飯田)発足した当初は経済的威圧がさほど世界的な問題にはなっておらず、個別具体的に考えると、日本はいちばん最初に、近いところで矢面に立った傾向がありました。この意義のようなものは、ときを経ることによって大きくなりますか?
細谷)CPTPPは、「高水準の経済的な連携枠組み」とよく言われます。他の自由貿易協定(FTA)などと比べると、かなり高い水準で参加国の協力を深めていく。どちらかと言うと、単に関税を下げるだけでなく……関税を下げるだけでも大変なのですが、共通のルールを設定していく。それがインド太平洋では重みを持つと思います。
EU離脱後、インド太平洋地域により深く入ろうとするイギリス ~日本とイギリスがインド太平洋でルールづくりの中心に立つという新しい展開に
細谷)イギリスはルールづくりが得意な国です。さらにイギリスは、2021年に新しい「統合レビュー」という長期的な10年に渡る戦略をつくりました。インド太平洋へ傾斜する形で、欧州連合(EU)離脱後のイギリスが、これからはインド太平洋に入ってくる。これはウクライナ戦争が始まってからも変わっていません。
飯田)インド太平洋に入ってくる。
細谷)そういった意味では、新しい国際的なアイデンティティとして、自分たちはインド太平洋国家なのだと。イギリスは欧州の国ですが、太平洋にもピトケアン諸島という海外領土を持っており、インド洋にもディエゴガルシア島を持っていますので、インド洋と太平洋のどちらにも領土があるインド太平洋国家でもあるのです。
飯田)イギリスは。
細谷)もちろん、歴史的なつながりも深い。TPPが欧州に広がったというよりは、むしろ「グローバル・ブリテン」をスローガンとして、イギリスはこの地域により深く入ろうとしています。日本とイギリスがインド太平洋でルールづくりの中心に立つという新しい展開が、これから見られるかも知れません。
イギリスと日本が協力してCPTPPで秩序をつくり、特に中国の経済的な威圧に対抗する ~カナダやオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールにとっても歓迎すべき出来事
飯田)先に行われたG7広島サミットのタイミングでも、日英首脳会談が行われました。共同で出された声明では、安全保障面でも緊密な連携を示した。直前にスナク首相は、海上自衛隊の横須賀にも訪問していました。
細谷)いまの話は、「広島アコード」と呼ばれる日英の合意ですね。いまの日英関係は、1902年の「日英同盟」よりも強化されていると思います。
飯田)日英同盟の時代よりも。
細谷)あれは軍事的な同盟でしたが、いまは経済から社会まで幅広く合意し、双方の信頼関係も100年前よりはるかに強いです。日本とイギリスが地域的なルールをつくっていく。イギリスと日本、それぞれヨーロッパとアジア太平洋を得意とする国が協力し、CPTPPで秩序をつくり、特に中国の経済的な威圧に対抗する。これは地域における主要国、カナダやオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールにとっても、歓迎すべき出来事だと思います。
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