【レッドブル・エアレース】「パイロン」はこんなに風になっている
おたくま経済新聞 / 2018年5月30日 13時23分
エアゲートを通過する室屋機
レッドブル・エアレースのレーストラックを形作る、空気で膨らませたパイロン。風が吹いても形状を維持し、猛スピードで飛び回るレース機がぶつかっても安全であること……非常に矛盾した条件を両立させる、これなくしてレッドブル・エアレースは実現しなかったと言っても過言ではない、重要なものです。これは2003年の初回開催以前から様々な試行錯誤が続けられ、そして今も細かな改良が続けられています。さて、このパイロンはどのような仕組みになっているのか。ご紹介しましょう。
パイロン、もしくはエアパイロンと呼ばれるこの物体。高さ25m、底部の直径5m、先端部の直径0.75mという、円錐状の形をしています。純粋な円錐ではなく、2本並べてエアゲートを作った際、飛行機が通過する部分が長方形の「フライトウィンドウ」を形作るために、一部が垂直になるような形状となっています。
観客席から離れているために、具体的な大きさというものが判りにくいのですが、高さをビルで例えると8階から9階といったところ。すごく……大きいです……。
全体は9つのパートに分かれており、1~4までは白い基礎部分、5~9までがレース機が通過する赤い部分「フライトウィンドウ」となっています。最下段には形を維持し、真っ直ぐ立たせるために「テザー」と呼ばれるバンドが多数つけられており、ベース部分に止められています。
使われている材質も、白い基礎部分と赤いフライトウィンドウの部分で異なります。基礎部分は、パイロンをしっかり立たせて、その形状を維持することが第一の目的なので、プラスチックに近い材質が使われます。イベント用のテントに使われているものに近いですね。
そしてレース機が通過するフライトウィンドウ部は、レース機が接触(パイロンヒット)する可能性が高い部分なので、レース機が接触しても安全な素材が使われています。パラシュートなどにも使われている、スピンネーカーという布地を使用しているのですが、非常に軽く一般的なコピー用紙と同じサイズで比較するとおよそ40%未満という素材。パラシュートでは、万一裂け目ができた場合、それが広がるとパラシュートの機能が失われて大変なことになるので、裂け目ができてもそれ以上広がらない「リップストップ」という加工が施されています。しかしレッドブル・エアレースでは、飛行機が接触した場合、速やかに壊れてくれないと機体にダメージを与え、墜落の危険が増します。このため、一旦裂け目ができると簡単に敗れるような仕組みになっています。裂け目ができていなければ丈夫なのですが、裂け目がついたところから手で引っ張ると、いとも簡単に破ることができます。
パイロンは底の部分に設置された大きな送風機で膨らませています。送風機の回転数(送風量)とパイロン内部の気圧は絶えずモニタリングされており、適切な圧力になるよう、調整がなされています。
パイロンヒットが起こると出動するのが「エアゲーター」というチーム。5人編成で、レーストラックの3か所に配置されています。パイロンヒットが起こり、レースコントロールから出動命令がかかると、壊れたパイロンへ迅速に向かい、修復を行います。
各エアゲーターチームには、パイロンのスペアパーツが入ったバッグを携行しており、壊れた部分から先を交換します。パイロンの各パーツは樹脂製のジッパーとベルクロ(マジックテープ)で結合されており、ジッパーを閉じる「コマ」は取り外し式。小さな金属部品ですが、時速370kmで飛行するレース機にとっては弾丸にも等しい物体なので、交換時にグルリと1周させたあとは取り外す仕組みにしているそうです。交換時間はおそよ2分。2003年の初開催当時は20分もかかっていたのですが、構造などを改良し続け、今のように迅速に交換できるようになりました。
1チーム5人のエアゲーターは、内部作業を行う2人と、外部で作業する3人に分かれます。内部へはパイロン下に設置された小さいフラップドアから行います。ドアの部分は電磁石で固定されており、空気の抜けを最小限に抑えるため、速やかに開閉ができるよう工夫されています。いきなり開けると危険なので、開閉の際には大きな声で「フラップ!」と言って開閉作業を宣言することになっています。
次に中についてですが、まず出入りは速やかに行わなくてはなりません。
中に入ると、意外に明るい空間です。見上げると遠くに赤いフライトウィンドウ部と頂上が見えます。
そして最下層部は丈夫に作ってあり、内側にも補強用の帯と固定用金具が。
丈夫さと軽さ、そして安全性が考えられた構造になっているエアパイロン。レッドブル・エアレースを支える重要なパートのご紹介でした。
(咲村珠樹)
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