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自分の「うしろすがた」に反省したある日の話 Vol.8

OTONA SALONE / 2020年2月29日 20時0分

おばあちゃんに間違えられた私

アクアマリンのカシミヤのロング丈ジレにロロ・ピアーナのスカーフを首元に巻いた私は、六本木ヒルズ内にある銀行ATM機の前にいた。

 

すると、後ろから「すみません」と若い男性の声がする。ATM操作中に声をかけるなんて、あまりマナーがよろしくないわねと思いつつ、「はい?」といぶかりながら振り返ると警官が立っていた。

 

彼は人のよさそうな顔で言った。

 

「あのう、振り込め詐欺とかではないですか?」

 

へっ?

 

振り込め詐欺とかではない?って?

 

もしかして私を振り込め詐欺で他人の口座から現金を引き出す犯罪者の「出し子」と怪しんでいるのか、それとも、振り込め詐欺被害に今まさにあってしまっている高齢者と思ったのか、どっちなの?

 

若い警官の言葉が、大事なところが足りない紛らわしい日本語だったから、一瞬戸惑ってしまった。

 

しかし、間違いなく彼は私を高齢被害者かもしれないと思ったのだ。いやあ、犯罪者に見えなくて良かった良かった・・じゃない!

 

白髪染めをやめて以来、若干40代にして様々な「高齢者扱いあるある」にさらされてきたが、ついに「振り込め詐欺被害にあっていそうな高齢者」扱いの洗礼をうけた。

 

まあ、白髪で後ろ姿なんだから、そう見られても仕方がないと言えばそうかもしれないと自分を納得させようとしたけれど、これまでの高齢者扱いと違って今回はいつにもまして心がもやもやしてしまった。

 

だって私、結構おしゃれしてたよね?

 

上質でシンプルなものをさりげなく大人っぽく着こなしてたよね?髪の毛もきちんとまとめてたよね、とあらためて自分を多角的に検証することにした。

 

ATMの扱い方だってもたもたしていたわけではない。誰かに電話をかけてもいない。要は私の見た目の問題である。

 

そして答えはわりとすぐに出た。要するに白髪のせいでは全くなく「うしろすがた」がまるっきり「騙されそうなおばあちゃん」だったのだ。

 

「グレイヘア」は白髪に甘えることではない

これは盲点だった。私はこの数年、「グレイヘア」の申し子のような気分で白髪頭にばかり気をとられていて、全体を見ることを怠けていたのだ。

 

その結果として改めて自分の「うしろすがた」を見てみると、とてもまずいことになっていた。やはりウエストのくびれは消滅、お尻も平ら、ふくよか猫背。なんだかまるで厚手の布団みたいな形状になっているではないか。

 

やっと、若い警官の心中を察することができた。(おばあちゃん、大丈夫かな?)と思ったに違いない。そりゃ声をかけたくなるでしょう。

 

警官さん、ありがとうね・・・じゃねえよ!

 

私は大いに反省している。

 

白髪に甘えすぎた結果、「グレイヘア」に申し訳ないことをしてしまった。数多の「高齢者扱いあるある」にさらされて、あろうことかますます老け込む結果になった。

 

でも全く気づいていなかったわけではなく、高齢者扱いというのは、慣れてしまえば、案外心地いいものだと発見したので、しれっと身をゆだねていたせいもある。

 

ただ今日からは、心を入れ替えて、布団状態の背中から脱却することを決意した。

 

「老ける」というのは決して悪いものではないと思っているが、それは熟成するとか価値が増すとかいう、豊かに実る意味での「老い」であって、必要以上に頼りなく弱々しく、またはみすぼらしく見えたりするのは、決して喜ばしいことではないだろう。

 

日本語の使い方がいまいち怪しい若い警官よ、いまに見ておれ。

 

若いもんにはまだまだ負けられんのだ。

 

≪フリーアナウンサー、ナレーター 近藤サトさんの他の記事をチェック!≫

 

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