「何をしている人ですか?」と問われ、仕事の話ばかりになる人の悲哀
PHPオンライン衆知 / 2024年3月29日 11時50分
はじめてマネジャーになった人は、やる気があるあまりプライベートより仕事を優先してライフワークバランスが崩れてしまうこともあるでしょう。
しかし、仕事とプライベートのバランスを保つことは、あらゆる面でよい効果を生みます。では、どんなプライベートの活動が良い効果を生むのでしょうか?
※本稿はローレン・B・ベルカー, ジム・マコーミック, ゲイリー・S・トプチック(著), 佐々木 寛子(訳)『マネジャーの全仕事』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。
仕事のキャリアも大切だが、それだけが人生ではない
初めてマネジャーになった人は、新しい職責に没頭するあまり、起きている時間のほとんどを仕事に注ぎ込みがちだ。仕事に没頭する姿勢は素晴らしい。経営陣の一員として、良い仕事をして業績を上げようという意志の表れだからだ。
とはいえ、仕事とそれ以外の生活のバランスを保たなければ、健やかな人生は送れない。仕事のキャリアも大切だが、それだけが人生ではない。実際のところ、仕事偏重でないバランスの取れた人間になれたほうが、マネジメントでもバランス感覚に優れた良い仕事ができる。これらは切り離すことはできないのだ。
「何をしている人ですか?」と問われると、人は自動的に仕事の話を始める。歯医者だ、会計士だ、あるいは弁護士、営業スタッフ、マネジャー、美容師、トラック運転手など、仕事の話になるわけだ。だが、私たちの人生は仕事だけではない。仕事しか人生にないのなら、むしろそちらを改めるべきだろう。
退職した途端に自分が何者であるかを見失い、自尊心をなくす人は多い。人生と仕事がイコールだったため、退職と同時に、生きる目的が消えてしまうのだ。こうなるのは、人としてバランスが取れていなかったためである。
家族を除けば、すべての関心がキャリアを中心に回っていたのだ。仕事が充実していたなら、それを恋しく思う気持ちはわからなくもないが、退職で意義ある人生が終わるというのは悲しすぎる。
仕事にしか関心のない人は、一面的で薄っぺらい。そうした人は、マネジャーとしての能力でも、多面的な魅力を持つ人には敵わない。就任直後の数カ月はやむを得ないが、滑り出しの時期を過ぎたら、自分の関心を広げて、仕事以外の活動にも取り組もう。
社外活動に参加する
経営者を志す人は、ぜひ地域コミュニティの活動に参加しておきたい。自分の所属するコミュニティから恩恵を受けておいて、何の還元もしないようではまずい。同じことは職業上のコミュニティにも言える。業界団体などを通じて、後進に恩恵を還元すべきだ。
こう勧めるのは、完全に利他的な理由だけではない。もちろん主な目的は地域コミュニティや職業団体のサポートだが、そこには副次的なメリットが存在する。地元や業界での知名度は上がるし、自分の知識も増え、つながりや友人もできるだろう。
これによりマネジャーとしての基盤は広がり、昇進にも有利になるはずだ。企業内での役職が上に行くほど、リーダーシップはより重視される。地域や業界団体でのリーダー経験は成長の好機であり、社内でも「経営向きの人材だ」と好評価を受けやすいだろう。
昇進の判断では、業務面ではほぼ同条件の2候補から1人を選ぶ場面はしょっちゅうだ。そうした微差の判定の際には、社内外でのリーダーシップ経験が昇進の分かれ目になることもあり得る。昨今では、「課外活動」制度を導入し、会社が認可したコミュニティ活動プログラムへの参加を従業員に推奨する企業も増えている。
仕事を離れた読書
業務関連の読書はもちろん、それに限らず本をよく読むことは重要である。マネジャーは情報感度を高め、自分の地域や国政の動向を把握しておくべきだ。
ニュースサイト、新聞、雑誌、専門家ブログ、業界誌などで最新情報をキャッチしておきたい。マネジャーたるもの、世界情勢の知識も問われる。会社は確実に世界情勢の影響を受けているはずだ。
折に触れて、優れたフィクションを読むのも自分のためになる。良書を読むことは文章力の糧となるし、優れたフィクションの作家は人間について優れた洞察力を持っているためだ。さらに、フィクションを読むのは楽しく、楽しい読書はポジティブな行為だ。
部下に課題図書を読ませて会議や部内イベントで議論させているマネジャーもいる。課題図書のテーマはリーダーシップやコミュニケーションでもよいし、業界に関連する内容でもよい。この取り組みは、部署のメンバーが互いについて新しい発見をする機会となり、業績の高いチーム作りに役立つだろう。
人生のどの時期でも、人は知的にたゆまず、向上心を持ち続けるべきだ。幅広い分野に関心を張り巡らせていれば、自然とそうなるだろう。読書は、その良い方法だ。
公私の時間を分ける
仕事と、それ以外の私的な時間とを、きちんと分ける能力と意志を持たなくてはならない。仕事は職場で終わらせて、残りの時間は仕事以外の活動を充実させるべきだ。
趣味や興味関心など、仕事以外の側面も必要である。自分に合っていて継続しやすいエクササイズのプログラムへの参加もよいだろう。運動はストレス解消にも効果が大きい。
もちろん、仕事を持ち帰らざるを得ないことはある。そこまでではなくても、自宅で夜にメールチェックをすることはあるだろう。自宅では仕事をせずに済むのが理想だが、現実問題としては、仕方ない場合もある。
ただし、その罠に嵌まって、業務中に仕事が進まなくても自宅で追いつけるなどとは考えないこと。持ち帰りで仕事を片付ける場合には、仕事の時間をきっちり決めて公私の区切りをつけよう。
とにかく、持ち帰り仕事に私生活を埋め尽くされないことだ。健全なワーク・ライフ・バランスを保つために、私生活の時間を確保しておこう。IT技術の発達のせいでこれはより難しくなっているが、仕事から離れる時間は必要である。
常時接続の世界でワーク・ライフ・バランスを保つ
ワーク・ライフ・バランスを保ち、プライベートの時間を確保するためには、その旨を仕事関係者にはっきり具体的に示すしかない。良し悪しはともかく、昼夜問わずいつでも連絡できる時代である。
仕事と私生活の区切りを失い、仕事に人生を埋め尽くされないためには、2つの課題がある。1つ目は、対応しない時間帯を決めて自分を律することだ。
着信時間も気にせず四六時中、メールや携帯電話のメッセージをチェックしなければ気がすまないようでは、ワーク・ライフ・バランスは絶対にうまくいかない。
第2の課題は、部下を教育することだ。「この時間帯は、真の緊急事態でない限りは連絡を受けられない」と部下にはっきり伝えよう。
さらに、電話をマナーモードにしておくか、別の部屋に置いて、何度も鳴らない限りは電話に気づかないようにしておくのもよいだろう。ここでは、時差のあるエリアの部下や顧客への対応も考えなくてはならない。
「この時間帯は、そちらの営業時間ではあるが、私は就業時間外で、私用や就寝のため対応できない」と理解してもらおう。
時間を気にせず、平気でショートメッセージや電話をよこす部下にも対処しなくてはならない。こうした人に「連絡を受けられない時間がある」と理解させるのはあなたの責任だ。
時間外の連絡に対しては、翌日の業務時間まで一切応答しないのが、いちばん効果的な指導法かもしれない。どうしようもなく身勝手な人でも、その時間帯にまったく連絡が取れなくなれば、さすがに状況を理解できるだろう。
まずはあなたから始めるべきだ。一定の時間帯はオフラインにすると自分に課したルールさえ守れず、部下と連絡をとっている限り、あなたの私生活は他人に支配されっぱなしだ。自分の時間を自分のものにできるかは、あなた次第なのだ。
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