【逆説の日本史】日米両国に「シベリア出兵」を要請した英仏の二つの「思惑」
NEWSポストセブン / 2024年11月15日 11時15分
ただ、白軍の勢力の強いバイカル湖以東の地に兵を送るのに一番都合がよいのは、一に日本、二にアメリカであった。日本は日本海をはさんでロシアと対峙しているし、アメリカは大西洋と太平洋の双方に面し両洋に軍を展開できる国である。西海岸から太平洋を渡ればすぐにアジア、という利点がある。それゆえ、英仏から見れば日米に出兵を要請したほうが効率的である。
アメリカにはアメリカの事情があった。アメリカはウッドロウ・ウィルソン大統領の下、当初はモンロー主義の立場を取り中立国であった。モンロー主義とはアメリカ第五代大統領ジェームズ・モンローが内外に宣言した外交原則であり、「アメリカ合衆国はヨーロッパ諸国に干渉しない代わりに、アメリカ大陸に対するヨーロッパ諸国の干渉も拒否する」というものだった。一八二三年のことだ。
後のアメリカのことを考えればずいぶん消極的に見えるかもしれないが、この時点では独立戦争(1775年)こそ終わっていた(モンローも独立戦争に従軍している)ものの、アメリカの領土はボストンやニューヨークを中心とした東海岸だけである。最終的にアメリカ大陸からスペインの勢力を排除した米西戦争(1898年)どころか、西海岸のロサンゼルスやサンフランシスコをメキシコから奪った米墨戦争(1846年)もまだ先の話で、むしろ「小国アメリカ」としては「ヨーロッパで列強のやることには口を出さないから、こちらも自由にさせてくれ」といった感じの「宣言」だったろう。
しかし、米墨、米西の二大戦争の勝者となった後のアメリカは違う。とくに西海岸に進出したことは大きく、アメリカがペリー艦隊を派遣して日本に開国を迫ったのも、西海岸からなら太平洋を渡ってすぐアジアに進出できるからだ。当然そのような大国になれば外交方針も違ってくる。
日露戦争で日本に味方してくれたセオドア・ルーズベルト大統領は、モンロー主義を堅持すると言いつつも拡大解釈を始めた。この拡大解釈のことを「ルーズベルトの系論」と呼ぶが、具体的にはヨーロッパ諸国が中南米に干渉するなら武力に訴えても干渉を排除するというもので、そのうちに「向こうに非があるなら、世界中どこであれアメリカが武力介入してもよい」ということになった。
アメリカは第二次大戦後しばらくのあいだ「世界の警察」と呼ばれていたが、その発祥がルーズベルトにあることはおわかりだろう。この姿勢を人々は「棍棒外交」と呼んだ。彼自身の言葉「Speak softly and carry a big stick; you will go far.」(棍棒を持ちソフトに話す、そうすれば遠くに行ける=何事もうまく行く)に基づくものだ。
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