【逆説の日本史】日米両国に「シベリア出兵」を要請した英仏の二つの「思惑」
NEWSポストセブン / 2024年11月15日 11時15分
そのアメリカが第一次大戦参戦に踏み切ったのは、大西洋においてドイツが英仏への軍需物資の輸送を妨害するためUボート(ドイツ海軍潜水艦の通称)で民間商船をも攻撃する無制限潜水艦作戦に踏み切ったためだ。ドイツは劣勢を挽回するために、英仏が大西洋ルートで軍需物資を補給するのを妨害しようとした。
アメリカは中立国だと言っても、ドイツから見れば敵に大量に物資を補給している「敵国」である。また、当時は衛星による監視で船の種類や国籍を認識できるシステムなど無い。潜水艦の潜望鏡から覗くだけである。それでも国籍はともかく軍艦か民間商船かの区別はつくのだが、それでもドイツ海軍は無差別攻撃を実行した。「敵国への物資の補給は敵対行為である」ということだ。
しかし、やられたほうは堪らない。戦争とはなんのかかわりも無い民間船がやられてしまうからだ。とくに、一九一五年五月にイギリス客船「ルシタニア号」がUボートに撃沈されて千百九十八人が死亡し、そのうちの百二十八人がアメリカ人だったことにアメリカの世論は激高した。
さらに一九一七年一月、ドイツ帝国の外務大臣アルトゥール・ツィンメルマンがメキシコに、「もしアメリカが参戦するなら、同盟を組んでアメリカと戦おう。そうすればカリフォルニアが戻って来るぞ」と申し入れたと伝えられた。ツィンメルマン電報事件という。これは本来外交機密であるはずの電報の内容がイギリス情報部によって暴露されたもので、なにやら陰謀の臭いもするのだが、これでアメリカの世論も参戦を認めた。つまりこの時点で英仏は、日本だけで無くアメリカも同盟軍として使える体制が整っていた、ということだ。
(第1436回に続く)
【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『「言霊の国」解体新書』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。
※週刊ポスト2024年11月22日号
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