「英語&中国語」40代で徹底マスター全記録【1】
プレジデントオンライン / 2013年7月13日 18時15分
グローバリゼーションにより、40歳を過ぎて突然中国語や英語が必要になる人も増えている。若いときに留学や海外経験のないミドルが、どのようにして仕事に使えるレベルに上げたのか?
■部門の撤退を機にグローバル業務に
「本腰を入れて英語を勉強しないと、この会社で生きていけない……」
ダイキン工業滋賀製作所、空調生産本部企画部法規担当課長の山口義文さんがそう腹を括ったのは、2004年の40歳のとき。大学では機械工学を専攻し、事務機メーカーを経て1991年にダイキン工業へ転職。いわゆる理系人間で、開発業務一筋でやってきた。
ところが所属していた医療機器部門の市場撤退を機に、00年、空調機器の開発管理業務に異動。04年、世界中の各種法規制に製品が適合しているかどうかをチェックする部門が創設され、そのマネジャーに就任する。
それまでは専門部署がなく、法規制に詳しい社員が個別に担当していた。
「業務で読む文書は8割が英語。当初は英語が得意な人に任せていましたが、海外拠点のメンバーと直接やり取りできないし、担当者の分析結果(英語)を読むのにも時間がかかる。マネジャー自ら英語を習得して言いたいことを伝えないと、この仕事はできないと悟りました」
転職組のうえ、事業撤退も経験していることから、山口さんにとってはまさに背水の陣だった。そこで05年初めに駆け込んだのが、当時「駅前留学」を謳っていた英会話学校。費用は完全自腹で週2コマを受講。この駅前留学に加えて、週末に1時間ほど文法参考書『やりなおし英文法』を「SVOのレベルから」やり直した。
さらに、風呂上がりには、『キクタンBasic4000』という単語帳(1120語)を毎日4ページ(16単語)分、勉強。付録の赤色フィルムで日本語を隠しながら単語の意味を確認し、例文を声に出して読み、単語の使われ方も覚える。思い出せない単語はマークを付ける。
そんな頃、ベルギーの拠点への出張があった。会合自体は通訳もあり、特に英語を使う必要はなかったが、帰りに空港に向かうタクシーで運転手と英語の会話が弾んだ。わずか4カ月ほどだったが、英語の勉強の効果を「生まれて初めて実感した瞬間」だったという。
■『キクタン』を7年間で14回繰り返した
その後、英会話学校が経営破綻し、社内の英会話レッスンに切り替えた。費用の半額を会社が負担するサービスだ。自己負担は減ったものの、「自分で払っているんだから、毎週、授業には行こうという気になります。何よりも、今の収入があるのは、英語への投資をしているから。やめたら仕事もなくなると覚悟しています」と山口さん。
単語帳のキクタンは7年目。半年ほどで1周し、すでに14周していることになる。「妻から『よう続くね』と言われるほど。何周しても覚えられない単語があるんですよ」と笑う。ただし、暗記力を試すようなことはしない。
「絶対10個覚えるとなると、すごいプレッシャーですが、覚えていなければマークして次回チャレンジすればいい。その代わり、どんなに遅く帰っても、5分でもいいから目を通します」
5分では文字どおり流し読みだが、「今日もやった」という気持ちを切らさない“儀式”でもある。そうしないと、「1日くらい休んでもいいか」が、やがて「1カ月くらいは」に変わってしまうからだ。
通勤に使うクルマでは、昔ちょっとだけ手を出した英会話通信講座「ヒアリングマラソン」の教材CD6枚を流している。片道30分、クルマを動かせば自動的にこのCDがかかる。自分の日常行動にうまく学習を組み込んでいる。
また、出張の新幹線では、ポッドキャストの「English as a Second Langua ge」という番組を携帯音楽プレーヤーで聴いている。1回25分間で、割とゆっくりめの英文が読み上げられた後、単語の解説が入る番組構成だ。すでに3、4年続けている。
毎日歯を磨くように、風呂から出たら当然のように本を開く。「忘れっぽい」山口さんは、こうした習慣化が長く続けるポイントだと言う。単語は忘れるし、聞き取れない英文もある。それでも落ち込まず、淡々と続けている。
「ゴルフも好きで練習していて特別うまくなるわけではないですが、2、3カ月練習しないと極端にスコアが落ちますから。続けることが大切です」
また、山口さんは自分の性格をよく研究して、それに合った学習方法を実践している。先に紹介した文法書のやり直しも、「ある年齢を過ぎたら、英語をいっぱい聞いても上達しません。理屈とか文法でロジカルに覚えるしかないんです」と割り切っている。
「自分が理系ということもあり、文法というロジックから入ると非常にとっつきやすい。ここまで覚えればいいという範囲も見えるし、ロジックどおりに英語が使えたときが快感なんですよ」
そしてその原動力になっているのが、英語は趣味とか教養のためではなく、「カネを稼ぐ手段であり、止まったら死ぬ」という徹底した追い込みだ。
それでもモチベーションが下がったことはある。米国人との会食で会話がうまくかみ合わず、がっくりしたのだ。それでも、日常生活に学習が溶け込んでいたため、いわば「惰性で」勉強を続けることができた。
山口流のもう1つのポイントは完璧を目指さないこと。今続けられることを淡々と続け、うまくいかなくても深く落ち込まない。何より山口さんは明るい。英会話のクラスはグループレッスンだが、「私が一番しゃべっている。かなりうざいおじさんやと思います」と笑うように、物おじせず、恥ずかしがらずにしゃべる機会を生かしている。
実際、その甲斐あって、業務に焦りを感じていた頃と比べて、格段に英語力が伸び、「海外拠点の人間と接するときも、緊張感はなくなりました。また、コミュニケーションできる範囲が広がり、人脈がグローバルにぐっと広がりました」。かつて「このままでは仕事にならない」と悟った自分は、すでに過去のものとなった。
■山口さんの英語マスター法
(1)中学レベルの英文法をやり直す
S(主語)、V(述語)O(目的語)レベルの基礎の基礎を再確認。まず文法を論理的に理解することから始めることがポイント。
(2)基礎単語を徹底暗記
『キクタンBasic4000』(アルク)を徹底的にやって語彙を増やす。覚えていない単語はマークし、再度挑戦。毎日必ず5分でも読む。
(3)英語ニュースのCDをクルマの中でひたすら聴く
英会話通信講座「ヒアリングマラソン」の教材CD6枚を、徹底して聴く。出張中は、ポッドキャストに入れた番組を活用している。
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1964年生まれ。87年、立命館大学理工学部卒業後、某事務機器メーカー入社。91年ダイキン工業に転職し、医療機器部門へ。2000年から空調生産本部へ異動し、10年から同企画部法規担当課長。
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(翻訳家・ジャーナリスト 斎藤 栄一郎 永野一晃=撮影)
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