"サングラス"を禁止する甲子園の時代錯誤
プレジデントオンライン / 2017年8月4日 9時15分
■炎天下で帽子なしの部活動や運動会
いきなり私事になって恐縮だが、今年春に息子が都内の公立中学校に入ると同時に運動部に入部。夏休みも毎日のように部活動に精を出し、真っ黒に日焼けしている。
ここで気になる点がひとつ。学校側が紫外線や熱中症対策にあまり熱心ではないようなのだ。炎天下であれば、大人であれば帽子をかぶり、日焼け止めクリーム(サンスクリーン)を塗り、サングラスを掛けるだろう。ところが、息子は当初帽子もかぶらずに部活動に参加していたのである。
なぜか。息子は「誰もかぶっていないから」という理由を挙げた。帽子をかぶってはいけないルールはないけれども、帽子をかぶるように指導されてもいない――こんな感じだった。だからみんなと同じように帽子なしで練習していたのだ。
ここで6月の中学校運動会を思い出した。炎天下、生徒は帽子をかぶらずに校庭で汗を流していた。テントは本部や来賓席など一部にしか張られていなかったため、多くの生徒は待機中にも直射日光を浴びていた。不思議に思って何人かの学校関係者に聞いたところ、そろって「ハチマキをしているから」という答えが返ってきた。
帽子でさえこうなのだから、日焼け止めやサングラスとなるとずっとハードルが高くなる。熱中症対策にならないと思われているからだろうか。
■皮膚がんのリスクを高めかねない
だが、子どもの健康を考えれば紫外線対策も欠かせない。子どものころに紫外線を長時間浴びる生活を続けると、大人になって健康面で大きな問題を抱え込む。シミやシワなど肌の老化ばかりか、皮膚がんのリスクを高めかねない。
地元教育委員会は何をしているのか。問い合わせてみたところ、担当者は「毎年5月中旬には各学校に対して熱中症対策を採るように指示を出している」としながらも、「具体的対策については各学校に任せている」と回答。サングラスについては「使用許可を求める声は特に聞こえてこない」という。
そもそもサングラスについては使用許可を求めるのさえためらわれる状況なのだ。部活動でサングラス姿の生徒は1人もいないし、教員の大半もサングラスを掛けていない。こんな状況で保護者が「うちの子どもにはサングラスを認めてください」などと訴えたら、学校側は間違いなく戸惑うだろう。
■子どもは元気だからサングラス不要?
とはいえ、炎天下、サングラスなしで朝から夕方まで屋外で練習する日々を何年も続けたら、どれだけ目を痛めることになるのか。大人になってから白内障や黄斑変性症などを患うリスクがぐんと高まりかねない。
私は日差しの強いカリフォルニアに5年間住んでいたことから、紫外線のリスクについていやが上にも考えさせられた。屋外でスポーツするときに帽子、日焼け止め、サングラスの三点セットを持参するのは常識であり、紫外線から子どもを守るために一生懸命なアメリカ人の友人に感化された。「日焼け=健康的」という意識は皆無だった。
とりわけサングラスに対する意識は日本とは大きく異なる。屋外では率先して大人がサングラスを掛けてお手本を示しているから、子どもたちもサングラス着用に抵抗感を見せない。私自身も目の検査の際に「屋外ではできるだけサングラスを着用するように」とよく言われたものだ。
■「子どもは紫外線による健康被害を受けやすい」
アメリカでは紫外線から子どもの目を守ろうとの意識は数十年前からある。
例えば1993年7月の米ニューヨーク・タイムズ記事だ。「太陽から子どもの目を守ろう」と題し、「子ども向けサングラスの販売が爆発的増加」「幼児や子どもの目は紫外線をカットする色素が薄いから要注意」「70代の白内障や網膜変性は若い時期から紫外線を浴び続けた結果」などと書いている。
アメリカだけではない。世界保健機構(WHO)もかねて「子どもは紫外線による健康被害を受けやすい」と警鐘を鳴らし、帽子や日焼け止め、サングラスの使用を呼び掛けている。特に学校の役割に注目しており、「子どもを紫外線から守るうえで学校が担う役割は決定的に重要」と強調している。
それと比べると彼我の差はあまりにも大きい。かつて日本の部活動では「練習中は水を飲んではいけない」という非科学的慣行がまかり通っていたのだ。だが、今でも「子どもは元気だからサングラスなんて不要」「
■使用許可を求めたら「診断書」を要求される
学校側に「子どもの目を守ろう」との意識が希薄な状況下でサングラスの使用許可を得ようとすると、大変な労力を伴う。それを象徴しているのが、長野県内の公立中学校へ娘を通わせている自営業の伊藤一彦さんのケースだ(詳細は伊藤さんがブログにまとめている)。
伊藤さんがサングラスの使用許可を得ようと思い立ったのは、テニス部の練習で直射日光を浴び続けた娘の目が真っ赤に腫れ上がったからだ。部の顧問に相談したところ、「どうせカッコつけたいんだろ」「試合の相手に失礼」「駄目と規則で決まっている」などと言われ、取り付く島がなかった。
伊藤さんは学校を相手にしていてもらちが明かないと判断、市の教育委員会に直訴した。すると学校側から連絡が入り「善処したいが、医師の診断書が必要」と言われた。最後には県の教育委員会に直訴し、ようやくサングラスの使用許可を得られた。ただし「今回は特例」と念を押されたという。
■「原因は『オシャレ』ではないか」
特例であれば、70~80人の部員の中でサングラス姿は伊藤さんの娘だけになる。当然ながら目立つ。結局、周囲の目を気にするあまりサングラスの着用をためらいがちになり、ついには部活への熱意も失ってしまったという。伊藤さんは「部員全員にサングラスを認めてくれればこうはならなかったに」と今でも残念に思っている。
伊藤さんのケースは決して例外ではない。部活動の行き過ぎなど「学校リスク」を研究し、著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)などがある名古屋大学大学院准教授の内田良氏は「部活動で子どもの健康を第一に考えていない学校は多い」と指摘する。
「帽子はともかく日焼け止めやサングラスとなると、いちいち文書を出して許可を取らなければ使用できなくなる。ゴーグルやラッシュガード、サポーターなどでも問題の根っこは同じ。子どもの健康を優先すべきだというのに、前例を踏襲しているだけで思考停止になっている。そもそも『許可』にどんな根拠があるのでしょうか」
なぜ学校側は抵抗するのか。内田氏は「原因は『オシャレ』ではないか」とみている。日焼け止めは一種の化粧品であり、サングラスはファッションであるから、教育の場にはふさわしくない――こんなロジックがあるというのだ。同氏によれば、部活動で日焼け止めを禁止している学校もあるという。
■子どもの健康とオシャレ禁止、どちらが大事?
子どもの健康よりも「オシャレ禁止」のほうが大事なのだろうか。
ここで思い出されるのが高校野球だ。事実上の丸刈り強制や派手なユニフォーム禁止などが象徴するように、オシャレとは最も縁がない世界に見えるからだ。しかも国民的な行事でもある「夏の甲子園」は炎天下で開催される。
夏の甲子園が始まると、大人たちは「青春」「汗と涙」「すがすがしい」と大喜びする。炎天下にもかかわらず全力で疾走する球児の姿を見て感動する。まさに一大エンターテインメントだ。だが、かねて「猛暑の中でのプレーは問題」との声もある。子どもたちの健康を犠牲にして成り立つエンターテインメントであるならば、変えていくべきである。
とりあえずサングラスを全面解禁してみたらどうだろうか(現状では球児は主催者・審判員から事前に使用許可を得る必要がある※)。長髪と派手なユニフォームを制限しているからサングラスだけ解禁するわけにいかない? ならばいっその事、髪型とユニフォームも完全自由化すればいい。
夏の甲子園でオシャレが全面解禁になればインパクトは絶大だ。日本全国の部活動にも影響が及び、オシャレだからという理由で紫外線対策がないがしろにされるような状況は改まるかもしれない。
子どもの健康が第一なのであれば、オシャレくらい認めてもいいのではないか。自由にオシャレさせることで子どもの個性が伸びるならば一石二鳥だ。
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15.サングラスの着用
サングラスを使用する可能性のある時は、試合前(メンバー交換時)に主催者・審判員に申し出て許可を得たものの使用を認めることとする。メガネ枠は黒、紺またはグレーなどとし、メーカー名はメガネ枠の本来の幅以内とする。グラスの眉間部分へのメーカー名もメガネ枠の本来の幅以内とする。また、著しく反射するサングラスの使用は認めない。
と書かれている。
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(ジャーナリスト 牧野 洋)
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