安倍批判をしない自民総裁候補の期待外れ
プレジデントオンライン / 2018年3月20日 9時15分
■YKにかみつかれ、地方からも怒りの狼煙
「安倍さんも麻生さんも(佐川宣寿氏の国税庁長官起用を)適材適所と言い切った。これにはあきれたね」
小泉純一郎元首相は3月13日、BSフジ番組に出演し、安倍晋三首相、麻生太郎副総理兼財務相の政権ツートップを激烈に批判した。政界を引退後、脱原発に意欲を燃やす小泉氏は、脱原発を決断しない安倍氏に対し政策論で注文をつけることはあったが、個人を批判することはなかった。もともと安倍氏は小泉氏に後継指名されて2006年、首相についた。今回は親から「ダメだし」されたことになる。
小泉氏に平仄(ひょうそく)を合わせるように山崎拓元自民党副総裁も14日の党石破派会合で、文書改ざん問題について「(安倍氏の妻)昭恵氏の関与が明らかになれば、責任を取らざるを得ない」と、安倍氏の責任論に及ぶ可能性に触れた。小泉氏と山崎氏は、故・加藤紘一元自民党幹事長と3人で「YKK」と呼ばれ、1990年代から2000年代にかけて政局で存在感を発揮してきた。老いたりとはいえ、小泉、山崎両氏の発言は永田町でも注目を集めた。
地方からも声が上がる。13日には自民党会派の姫路市議が、森友問題での安倍政権の対応を批判して会派離脱。地方からの不満は全国で爆発寸前。25日に行われる自民党大会を前に党執行部は危機感を募らせている。
■猛然と批判するのは「いつもの人」
ところが、ここまで問題が広がっても、永田町にいる自民党の現役国会議員たちの動きはおそろしいほど鈍く、危機感は乏しい。今のところ明白に安倍批判を繰り返しているのは「南スーダンの日報問題は、加計問題、今回の森友問題と、安倍氏の周りの友達を優遇することが原因でいろいろな問題が起きている」などと語る村上誠一郎氏ぐらいか。ただし村上氏は今回に限らず、ここ数年、いつも安倍政権を批判している「万年非主流派」。彼が声を上げても「いつものこと」にすぎない。
国会の予算委員会では、自民党議員は安倍氏や麻生太郎副総理兼財務相に、決裁文書の改ざんに関与したかを尋ね、否定すると、それを受け入れ、あとは財務省の太田充理財局長を徹底的に追求するというパターンが続く。要は、改ざんには政治が関与しておらず「財務省の単独犯」だったという流れをつくろうとしている。
3月16日、自民党はこの問題の真相を究明するという触れ込みのプロジェクトチームをつくったが、トップは総裁特別補佐の柴山昌彦氏。設置は党幹事長室主導で決まったもの。政権に不利な調査結果が出るとは思いがたい。
■「政争」年のはずなのに
今年は3年に1度の自民党総裁選の年。自民党にとっては政争の年だ。総裁の座を目指す議員にとって「安倍1強」が崩れるのは千載一遇のチャンスのはずだ。
総裁選には石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長、野田聖子総務相が出馬をうかがい、河野太郎外相の名も取り沙汰される。彼らの言動はどうだろうか。
「事実を明らかにすることが第一だ。(麻生氏は)自身のあり方は自身で判断するべきだ」(石破氏)
「財務省で調査をするということだが、まずは真実をしっかり明らかにしてもらわなければならない。その上で政治の立場から日本の信頼回復のためにしっかり努力をしていかなければならないと思う」(岸田氏)
「非常に残念。麻生氏は究明する責任があり、その後のことは本人の判断」(野田氏)
「麻生氏のもと調査をしっかりとして、信頼される政府にしなければ」(河野氏)
いずれも真相を究明する必要性は強調し、麻生氏主導で真相を究明する必要性は訴えているが、政府全体を批判する声は聞こえてこない。ましてや安倍氏への批判は皆無といっていい。
■「安倍1強」の中、自浄作用を失っている証拠
石破氏に近い議員からは、今回の森友文書改ざん問題を「願ってもない展開。森友学園の籠池泰典元理事長ではないが『神風だ』」という声も漏れてくる。しかし、安倍首相が倒れれば勇んで政権を取りに行く意欲は感じられるが、自ら倒閣しようという決意は感じ取れない。安倍氏と最も敵対する石破氏側がその程度なのだから、岸田、野田、河野氏らは推して知るべし。官邸批判は聞こえてこず、逆に「こういう時に党内の不協和音を出さないように」という通達を出すベテラン議員もいる。
苦しい時に結束するのは、長い間政権を維持し続けてきた自民党の「秘伝のタレ」であることは否定しない。しかし行政文書の大規模改ざんという前代未聞の事態となっている今なお、沈黙が続いているというのは、「安倍1強」の中、自浄作用を失っている証拠でもある。
内閣支持率は暴落中。時事通信が3月16日に公表した世論調査では、内閣支持率は9.4ポイント低下して39%台に低下。5カ月ぶりに不支持が指示を上回った。国民の不信に応えず、だんまりを決め込んでいるようなことがあれば、麻生氏、安倍氏にとどまらず自民党全体が見放されることになりかねない。
(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)
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