1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

岸田首相の延命もここまでだ…「安倍派は処分、自分は続投」というサイコパスな判断の重すぎる代償

プレジデントオンライン / 2024年4月6日 9時15分

首相官邸に入る岸田文雄首相=2024年4月4日午前、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

岸田首相は、自民党の裏金問題に関与した議員ら39人を処分した。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「岸田政権は、低支持率ながら『一強』体制でなんとか延命してきた。しかし、今回の処分で政権を支えてきた安倍派が壊滅的な打撃を受け、結果的に自らの首を絞めることになるだろう」という――。

■岸田首相は自民党屈指の「壊し屋」

歴代の自民党総裁(首相)の中で「壊し屋」と言えば、小泉純一郎元首相の印象が強い。「抵抗勢力」というワードを多用して仮想敵を作り、郵政民営化などを実現させていった政治手法は記憶に新しいところだ。

しかし、筆者は、岸田文雄首相こそ、70年近くに及ぶ自民党の歴史の中でも屈指の「壊し屋」ではないかと考えている。

そのことは、東京大学の御厨貴名誉教授も、朝日新聞の言論サイト「RE:RON(理論)」(3月22日)の中で、「岸田さんは『究極の壊し屋』」との表現を用いて、「支持率を気にすることなく、妙に達観している。結果的に強い首相になってしまった」と分析している。

御厨氏は「結果的に……」と指摘したが、岸田首相の場合、重要な局面で見せるサプライズ、もっと言えば、自民党全体を揺さぶるようなショック療法によって、安倍晋三元総理とは趣がことなる「一強」体制を構築してきたと言っていい。

■就任早々、野党を驚かせた「奇襲攻撃」

まずは、第100代内閣総理大臣に就任した2021年10月4日の記者会見で、10日後の10月14日に衆議院を解散すると表明したことだ。就任早々の解散権の行使は、野党にとってはまさに夜討ちのような「奇襲攻撃」で、結果、自民党は勝利を得た。

2つめは、今年1月18日、政治資金パーティー裏金事件を受け、他派閥に先がけて岸田派(宏池会 46人)の解散を表明した点だ。

宏池会と言えば、1957年に創設された自民党内で最も伝統のある派閥である。それを「解散する」と表明した衝撃は大きく、このひと言で、安倍派(96人)や二階派(38人)が派閥解消を余儀なくされ、麻生派(56人)や茂木派(53人)も、その実態はともかく政策集団へと衣替えした。

それまで党内第4派閥のトップにすぎず、党内基盤も弱かった岸田首相は、自ら派閥解消に先鞭をつけることで自民党を内部から壊し、党全体を掌握できる立場に上り詰めたことになる。

■摩訶不思議な「一強」体制が出来上がり

そして3つめは、2月28日、裏金事件をめぐる政治倫理審査会に自ら出席すると述べたことである。

「ぜひ志のある議員に政倫審をはじめ、あらゆる場で説明責任を果たしてもらいたい」

この言葉、とりわけ「志のある議員に……」のくだりは、政治倫理審査会への出席を逡巡していた安倍派や二階派の幹部に、「出席しなければ、有権者に『志がない』と見られかねない」と思わせるには十分なインパクトがあったに相違ない。

このように、党内基盤が強くなかった岸田首相は、「まさか、そんなことはしないだろう」という予想を次々と覆す手法で、内閣支持率は超低空飛行なのに「岸田降ろし」には至らないという摩訶不思議な「一強」体制の構築に成功したのである。

■裏金議員の処分で安倍派が完全に崩壊

しかし、岸田首相の成功はここまでだ。

4月4日、自民党が決定した安倍派と二階派39人の議員に対する処分は、以下の2つの点で大きな禍根を残した。

(1)安倍派元幹部の失墜と安倍派議員からの不満増大
(2)岸田首相(自民党総裁)にすべて背負ってもらうべき、との声の拡がり

まず、曲がりなりにも岸田政権を支えてきた安倍派が、処分によって完全に崩壊したことはマイナスに作用する。

すでに報道されているとおり、安倍派の座長を務めてきた塩谷立元文部科学相と世耕弘成前参議院幹事長が。「除名」の次に重い「離党勧告」、下村博文元文部科学省と西村康稔前済産業相が3番目に重い「党員資格停止(1年)」、そして、高木毅前国対委員長も「党役員資格停止(半年)」、萩生田光一前政調会長と松野博一前官房長官、それに二階派の武田良太元総務相ら9人は「党の役職停止(1年)」で決着した。

【図表】自民党裏金問題に関する安倍派幹部の処分
編集部作成

「これは安倍派いじめの権力闘争」「処分がマスメディアの報道を受けて重くなっている」「その基準も不明確」との声は従来からあったが、処分が決まった後、塩谷氏が議員事務所で記者団に語った言葉が、全ての不満を表している。

「今回、(還流に)関わった派閥の関係のそれぞれの立場の人は、同じように処分を受けるということが公平な考え方だと思っている」

普段は穏やかな塩谷氏の言葉は、処分の対象外となった岸田首相への強い憤りを如実に物語っているように思えてならない。

■「除名」経験者が語る処分の代償

岸田首相と同じ1993年当選組で、小泉政権時代の2005年、郵政民営化に反対し党を除名(2017年に復党)された荒井広幸氏は、筆者にこう語る。

「実際に何度も選挙をやった立場から言えば、これらの処分は大きなダメージになります。中には、たとえば『党員資格停止1年』に関して、1年以内に衆議院選挙があれば党の公認を得られない反面、選挙がなければ特に問題もないという人もいます。しかし、党が処分を下したという意味、処分の理由などを考え合わせると、ものすごくマイナスになります」

「処分された幹部の中には、『ポスト岸田』を目指すような人もいますよね。通常は、若手や中堅議員に分け与えるべき立場の政治家が、自分もキックバックを受けていました、でも詳細は知りません、となると、リーダーになる資格はないですよ。若手議員からすれば、『この人はこの程度の人。腹が据わっていない』って思っちゃいますよ。やはり、『申し訳なかった』と非を認め、議員辞職をして次の選挙で返り咲くことを目指すべきだったと思いますね」

■「私は、もう岸田さんを支持しない」

荒井氏は、2005年8月、当時の小泉首相に離党届を提出して門前払いを受け、武部勤幹事長宛てに出し直した過去を持つ。荒井氏は、直後の「郵政民営化解散」で自民党が圧勝した後、除名処分となるのだが、そのとき、参議院議員だった荒井氏は「次の選挙は難しいだろうな」と実感したと語る。

郵政民営化の是非は、政策に関する考え方の違いだが、今回は政治資金規正法違反事件に絡む処分である。有権者の反応はもっと冷たいはずだ。すでに派閥は解消したとはいえ、最大勢力を誇った安倍派が壊滅的な打撃を受ければ、自身の処分は回避した岸田首相はもとより、しぶしぶながら処分を主導した茂木敏充幹事長への不満も一段と高まる。

「亡き安倍元首相が、一致団結して岸田政権を支えようと言うから支えてきただけ。少なくとも私は、もう岸田さんを支持しない」(安倍派中堅議員)

先に紹介した塩谷氏のコメントからもうかがえるように、9月の自民党総裁選挙で再選を目指す岸田首相にとって、今回の処分が、求心力を高めるどころか大きな遠心力へと変わっていくことは避けられそうにない。

■岸田首相では、衆議院解散も内閣改造もできない

もう1つは、「岸田首相全責任論」の高まりである。荒井氏の見立てをもう1つ紹介しよう。

「岸田さんは、今の状況を建て直せるのは自分しかいないと思っているかもしれませんが、私は、岸田さんで次の衆議院選挙は戦えないと見ています。岸田さんはおそらく内閣改造をした後に自民党総裁選挙に臨む考えでしょうけど、果たして組閣ができるのかどうか疑問です。いろいろな議員と話をするとね、『岸田さん、通常国会が終わったら、全部背負って退陣してくれ』という声もあるんですよ」

筆者が見る限り、岸田首相本人は続投に意欲満々だが、最新の内閣支持率と自民党支持率を足した合計は50%を割り込み、昨年死去した自民党の青木幹雄元参議院議員会長が経験則から唱えた「青木率」(内閣支持率+政党支持率=50%を割り込むと危険水域)と呼ばれる水準を下回っている。

永田町でもよく知られたこの法則に照らせば、岸田首相は、衆議院の解散どころか内閣改造もままならず、早晩、退陣に追い込まれることになる。

見出しに踊る「衆院選」の文字
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■「岸田降ろし」を回避しようするものの…

こうした中、岸田首相と自民党執行部は、4月28日に投開票が行われる衆議院3つの補欠選挙(東京15区、島根1区、長崎3区)のうち、東京15区と長崎3区を不戦敗にすることで「負け数」を減らし、「岸田降ろし」につなげない作戦に出た。

また、6月20日に告示(7月7日投開票)される東京都知事選挙をにらんで、小池百合子知事が国政にくら替え出馬しないよう、衆議院の解散日程も入念に検討している。

しかし、いくら補欠選挙で「負け数」を減らし、小池氏の国政復帰を阻止し自民党総裁選挙出馬の可能性をゼロにしたとしても、今年夏ごろ、内閣改造に着手した途端、「もうここらへんで降りてくれ」との声が高まり、入閣を要請した議員の固辞も相次いで、結局、内閣改造ができないまま表舞台から去る可能性は十分にある。

■「反岸田」の流れを作るのはだれか

今の自民党には、政局の流れを作るシナリオライターが不在だが、麻生太郎副総裁か、もしくは、党から処分される前に次期衆議院選挙への不出馬を表明した二階俊博元幹事長が、GNPと略される二階氏独特の政治手法、「義理(G)と人情(N)とプレゼント(P)」攻勢で、「反岸田」の流れを作るかもしれないと注視している。

すでに、公明党の山口那津男代表や石井啓一幹事長らは、しきりに「秋の総裁選以降の衆議院解散」を説いている。この背景には、公明党や支持母体である創価学会のお家事情もあるだろうが、「(岸田首相に代わる)新たな総裁で選挙を戦ったほうが有利」との思惑も働いている。

岸田首相としては、4月中旬の訪米と6月からの定額減税で政権浮揚を狙うほかないが、俳人・松尾芭蕉の句になぞらえて言えば、「何しても首筋寒し秋の風」になりそうだ。

----------

清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学特任教授
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組プロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。専門分野は現代政治、国際関係論、キャリア教育。著書は『日本有事』、『台湾有事』、『安倍政権の罠』、『ラジオ記者、走る』、『2025年大学入試大改革』ほか多数。

----------

(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学特任教授 清水 克彦)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください