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二刀流・大谷翔平は"掃除"で一流になった

プレジデントオンライン / 2018年6月27日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/EasternLightcraft)

サッカーW杯で日本人サポーターの「ゴミ拾い」が海外で称賛を集めている。そうした日本の「掃除文化」に注目し、シンガポールでは2016年、すべての小中高校に「掃除(SOJI)」の時間を導入している。一方、日本国内では「学校教育に掃除は不要」という声も根強い。学校教育に掃除はいるのか、いらないのか。現役国立小学校の教師が実感する「掃除の4つの効能」とは――。

■W杯で日本の「掃除」が称賛されている

サッカーワールドカップ(W杯)のロシア大会で、日本が躍進しています。そして、日本の「掃除」も世界から注目されています。ロシアに出向いた日本人サポーターが、試合後、客席のゴミ拾いをする様子を海外のメディアが素晴らしい行動だと称賛しているのです。

サッカー会場以外でも、日本の掃除掃除の評価が高まっています。2016年にシンガポールの全ての小中高校で日本の学校をモデルとした「SOJI」の時間が導入されたのです。今、アジアで経済的に急成長している国が、掃除教育を新規に導入したというわけです。

日本の「掃除」をポジティブに評価する動きが海外で広がる一方、日本国内では「学校教育における掃除は不要ではないか」という考え方の保護者が少なくありません。「毎日掃除にかける時間は無駄」「疲れて勉強がおろそかになる。なぜ子供に労働をさせるのか」「掃除は不潔」。そんなふうに学校に申し出る人もいます。

学校教育に掃除はいるのか、いらないのか。

教師として小学校教育に17年間携わってきた筆者が「掃除には教育的価値がある」という立場で、その理由を述べたいと思います。

【1:気づき付きの場・褒められる場としての掃除】

子供は掃除をするから、汚れに気付きます。

筆者の知人の教師(小学校1年生担任)は自身の著書でこう述べています。

<雑巾の役目は、汚れを雑巾に移すことです。これがわかっていないと、雑巾を滑らすだけで「拭いた」つもりになります>(宇野弘恵『スペシャリスト直伝! 小1担任の指導の極意』明治図書)

自分自身を汚すことで、他をきれいにする。それが雑巾。ここをきちんと理解した児童は、拭き方が変わります。体重が乗るようにちょうどいい大きさに雑巾を折り、汚れている部分を見つけながら丁寧に拭くようになります。雑巾を開いてみると、汚れが雑巾に移ったことがはっきり見えます。自分自身が大変な思いをすることで、他を輝かせることができる。これが「雑巾がけ」の精神です。

教師としては、掃除は子供を褒めることができる場面です。

笑顔で「○○さんのがんばりがはっきりわかるね!」と頑張りを認めてあげられます。子供の自己有用感が高まり「きれいにするって、気持ちがいいね」という価値観を共有できます。一石二鳥にも一石三鳥にもなります。

■なぜ掃除する子は人に優しく頭がいいのか?

【2:思いやりの心を育てる場としての掃除】

掃除は、心の荒みを取り除いてくれます。

筆者がかつて担任してきた「荒れた」子供たちは、最初は総じて掃除が下手でした。しかし、役割を明確にして取り組ませると、大きく変わります。やり方は簡単で「教える、やらせて任せる、褒める、感謝する」。これを繰り返すだけです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/hanapon1002)

「これは力持ちの○○君に任せたよ」
「△△さんはトイレ掃除のプロだね」

などと、きちんと相手を認めた言葉で任せていきます。こうした言葉をかけていくと、いわゆる「問題行動」の目立っていた子ほど、掃除が上手くなります。

なぜでしょうか。それは、これまで認められる場面が極端に少なかったからです。中には「今まで(親にも教師にも)一度も褒められたことがない」という子供もいます。掃除は、学力の高低などにかかわらず、やった子供をフラットに評価できます。やったことが確実に認められる世界です。

学校だけではありません。業績の落ち込んでいる企業でも、掃除教育に取り組んだ結果、再生に成功したという例はたくさんあります。それは床の汚れを取り除いているようで、実は心の汚れを取り除いているからではないでしょうか。

掃除がうまくなってくると、汚れた場所を積極的に探すようになります。見落とされがちな場所を考えるようになります。床がきれいになると、壁の汚れが気になりはじめ、ひいては天井、そして空間全体をきれいにしたいと思うようになります。

ここには一種のゲーム感覚もあります。掃除を表す「clean」の語源が「clear」であるように、「明確に」「すっきり」とクリアしたことがわかるのです。

掃除を工夫し始めると、使う人のことを考えるようになります。

例えば、トイレを掃除するのにも「こうだったら気持ちいいだろうな」と考えるようになります。すると便座の裏をきれいにするだけでなく、周りにあるにおいの原因を取り除こうとしたり、「トイレをきれいに使うコツ」を図や言葉で掲示しはじめたりします。

思いやりの心を自然と育む場として、掃除は価値が高いのです。

【3:学力を高める場としての掃除】

掃除にしっかり取り組む子は、おおむね家庭教育も充実しています。何をするにも、子供自身にじっくり考えさせる、やらせてみるという方針の家庭の子は、掃除が上手いです。自分のことは自分でやるということがしつけられている子供も、掃除ができます。これらは、自分のしたことに後始末ができる、責任がとれるということです。

「自分で考える」「教えたらとりあえずやらせてみる」「自分で責任をもたせる」という家庭の子供は、掃除の力だけでなく学力も高くなります。それは、物事への取り組み方の「基本」が身についているからです。

■二刀流・大谷翔平は「掃除」をして運を引き寄せた

反対に、「両親が先回りする」「親切にしてあげる」という家庭の子は、なかなか掃除が上手くなりません。また、勉強だけがんばって良い成績をおさめればよい、という方針の家庭の子どもも掃除が苦手です。自分の直接的利益にならないことは「無駄」という価値観をもっているからでしょう。

また「いい子にしなさい」と指導されている子供は、決められたことはできますが、自分自身で考え工夫することが苦手です。だから、掃除でも決められた動きはできても、プラスワンの工夫ができません。

【4:掃除が大谷翔平選手のような人間を育てる】

米大リーグで投打の二刀流で活躍するエンゼルスの大谷翔平選手は、高校時代から将来の夢に向けて「日誌」をつけていたといいます。

実は、その中に、日々の掃除に関する項目が登場します。夢を実現するためには、運が必要です。その運を高めるために、大谷選手は、野球の道具を大切に使ったり試合の審判に礼儀正しい態度をとったりするだけでなく、ゴミ拾いや部屋掃除をしていたのです。その掃除を通した「気付き」や「感謝」が、自分を本当に強くすることを実感していたのです。

花巻東高校1年時に大谷選手が掲げた大目標「8球団にドラフト1位指名される」ために必要なことのひとつとして「運」をあげ、そのために、「ゴミ拾い」「部屋掃除」など実践することをあげている。出典:「岩手県生涯学習情報提供システム まなびネットいわて」。

以上、私が個人的に感じる「掃除の4つの効能」を説明しました。

わが子を強く賢く育てたいと望むなら、家庭内で掃除や皿洗いなど、掃除に関わる活動(お手伝い)をとり入れることをおすすめします。

2017年改訂の文部科学省学習指導要領の「学級活動」の中に、一人ひとりのキャリア形成と自己実現のための活動として、「掃除」はこう位置付けられています。

「社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解、掃除などの当番活動や係活動等の自己の役割を自覚して協働することの意義を理解し、社会の一員として役割を果たすために必要なことについて主体的に考えて行動する」

世界が注目する日本の「掃除文化」は、子供の人間としての器を大きくしていくと確信しています。いまこそ日本のもつ掃除教育の価値を再考してみる時期ではないでしょうか。

(国立大学附属学校 小学校教諭 松尾 英明 写真=iStock.com)

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