母親が子育てに感じる"怒りの正体"と対策
プレジデントオンライン / 2018年10月22日 9時15分
■わが子の「3大ないない」に途方に暮れる母
世の子育てをしている母親たちの多くは、息子・娘の存在に悩んでいます。「やる気がない」「勉強しない」「言うこときかない」。筆者はこれらを子育てにおける「3大ないない」と命名し、母が途方に暮れるこの時期を「ないない期」と呼んでいます。
『プレジデントFamily2018年秋号』では小学校高学年の子を持つ母親505人の悩みをリサーチしています。この結果を見ても、母たちは一斉に「ないない」と言っています。例えば「学習習慣の悩み」に関する結果は次の通り。
「言われないと勉強しない」46%
「わからないことがあっても、自分で調べない」41%
「読書習慣がない」38%
「基礎学習が習慣になっていない」22%
「興味を持って夢中になっていることがない」21%
「辞書や百科事典、地図などを使えない」13%
多くの母親たちはまるで「子どもが○○しない」病にかかっているかのようです。「○○しない」ことは重罪で“正しい大人”にはなれないと猛烈に焦っているのです。
しかしです。思春期や受験期のわが子に手を焼く親から、大量の相談を受けてきた筆者に言わせれば、子どもは「○○しない」ことが当たり前の存在です。「○○できる」というような「ないない期」の反対の症例を持つ子供、つまり“できる・やれる”の「るる期」を快調に歩み続ける子供も稀にいます。この方々を筆者は「雲上人」と呼んでいますが、今回は除外します。
■母親自身も「ないない」尽くしで嘆き悲しむ
「ないない」と母親が叫ぶのは子供に対してだけではありません。自分自身にも言っているのです。
今回の『プレジデントFamily2018年秋号』の調査でも、それは明らかでした。「欲しいものはなんですか?」との質問に母たちはこう答えたからです。
「お金」60%
「健康」18%
「時間」13%
子育てが始まると多くの母親は万年「睡眠不足」となり、また万年「時間不足」、そして万年「金欠」となるケースが増えます。さらに、子供を成人させるまでの期間は、年齢的に更年期にさしかかることが多く、子育ては「更年期VS.反抗期」の戦いともなるのです。
自宅の狭い空間の中で、子供も自分も「ないない」状態で角を突き合わせているようなものなので、バトルは避けられないでしょう。
■母親が子育て中に感じる「怒りの正体」とは?
母たちはなぜ、子育てに怒りをため込むのでしょうか? その怒りの正体は何でしょうか? 筆者はこのように考えています。
「なんで、アタシがこんな目に?」
子育ては、自分の意志で産んだ子どもに対して、自分の時間、健康、お金をすべて注ぎ込み、ご奉仕する行為と言えるかもしれません。すべてを捧げ、尽くしている。なのに、ただのひとつも思い通りに動かないというのはいかがなものよ、とイライラするわけです。
逆に言えば、「金・健康・時間」の無限搾取という不平不満が募って、わが子にそれをぶつけてしまうのでしょう。
ある15歳の少年が筆者にこう言ったことがあります。
「お母さんは俺の姿を目の端っこに捉えただけで、スイッチが入るらしく怒鳴っています」
愛情を込めて怒っても子供はそんなふうに冷淡に眺めているのです。母は怒鳴り損です。さらに子供がさっさとどこかへ消えているのにも気づかず、母が誰もいない部屋に向かって怒鳴る光景は、もはや“思春期における風物詩”です。
筆者の感覚だと、この母親のイライラ期は子どもが14歳の時にマックスになります。おそらく「高校受験が迫っているのに、この自堕落ぶりはなんなんだ?」ということが原因でしょう。
■「母親失格」の烙印を押されるのは嫌
わが国は過剰に「母の責任」を押し付けてくる傾向があります。子どもに何か粗相や不出来なことがあると、それらはすべて「母のせい」とされます。この空気がますます母を萎縮させ、母を不安にさせていくのです。
「ちゃんとした大人にさせなければ、私が母親失格のそしりを受けてしまう……」
実際、このアンケートでも62%の人が「母親失格だと思ったことがある」と回答しているのです。筆者に言わせれば、こうです。
母に失格も合格もありません。
母は家の中にいるだけで(専業主婦という意味ではありません)価値があり、もっと言うならば「子を叱ることは母の仕事」です。全世界に70億もの人が暮らしているそうですが、その70億人の中でたったひとりだけです、あなたの子供を本気で叱ることができる生命体は。それだけで、貴重な存在だと思うのです。
子も「ないない」、母も「ないない」、子育てはそういうものなのです。
■子育てのイライラを緩和する5つの方法
しかし、真面目な性格の母親はこの状態を少しでも緩和させたいと願うでしょう。筆者がおすすめしている「緩和法」をいくつかお伝えしましょう。
【1:敵(わが子)は別人格であると割り切ろう】
己の自己コントロールだって難しいんです。ましてや自分以外の人間を思い通りにさせることなどできません。「親とは別の人生を生きようとしているのか」と、子の自己主張にムカつきながらも、その成長に無理やりでも目を向けてください。
【2:人生は転ばないと痛さが分からないものと達観する】
母は「転ばぬ先の杖」とばかりに、子どもの目の前の小石すらも拾ってしまいがちです。
しかし、いずれ母は小石拾いを諦める時が来ます。その時、初めて「道には石が落ちている」ことに気が付くようでは、子は生きづらくなるだけです。
母はいたらないくらいがちょうど良いのです。小石は小石のままにして「ああ、やっぱり転んだか」と、自分の力で起き上がるのを見守っていられる母でありたいものだと思います。
【3:機嫌が悪いことをカミングアウト】
多くの母は子育て時期にプレ更年期も含めると長い更年期にぶつかります。そのときイライラするのはホルモンのせいで、母のせいでも、子のせいでもありません。いわば生理現象なので、怒りたくなったら、怒鳴る前に「ごめん、機嫌が悪い!」と言って、伏線を張っておきましょう。
すると、あなたの家族も理由がわかって退避時間が稼げるでしょう。家庭平和のためにカミングアウトは大事です。
【4:プチ家出と褒め褒め日記のススメ】
母も人間です。機嫌が悪い時もあります。心の中に怒りがいっぱいになったり、不安で押しつぶされそうになったりしたときには、500円玉を握りしめて「プチ家出」をするといいでしょう。ワインコインで最大級に自分を“おもてなし”する作戦を考えてください。
たぶん、あなたは公園のブランコに座りながら、コンビニで買った100円珈琲を飲み「我ながら、安上がりな女だこと……」と言いながら、400円は握りしめて帰るでしょう。
そのうえで、帰ってきたら、毎日「褒め褒め日記」を書くようにしてください。
「今日は怒らずに夕飯を終えた」とか「家族に笑顔で『いってらっしゃい』と言えた」とか、そんなことで十分ですから、まずは自分を褒めること。それができて初めて、人は自分以外の人を褒められるのです。
■イライラしたら黙って肉を焼き、子供に食べさせる
【5:怒りは小出し、煮詰まったら、肉を焼け】
「早く!」「何度言えばわかるの?」と子供に怒ってばかりの自分に悩んでいる母は多いものです。怒りたくないのに、怒らざるを得ないことばかりが起きるのですから、仕方ありません。
「怒る」と「叱る」は違うから「母は怒らず、叱るべき」と言われたりもしますが、そんな余裕があるなら、子育ては苦労しません。怒ることが「悪い」と思って、我慢してはいけません。
なぜなら、我慢すればするほど怒りのパワーがたまり、ある日、大爆発を引き起こすからです。そうなれば計り知れない時間と労力を失うことになります。
「怒りは小出しで」が基本です。母の小言くらいでどうにかなるような子だったら、今頃、「雲上人」の住民です。大丈夫、子供は幼い時から母の小言をBGMにしてスクスクと育っています。自信持って、小出しに怒ればいいんです。
怒るパワーがある時は、まだ、あなたが元気な証拠です。それすらなくなった時はこうしましょう。チューハイ片手に肉を焼く。イライラしたら肉を焼く。黙って、子どもに肉を出す。こうやって、四苦八苦、右往左往しながら、どうにかやるのが子育てです。
■楽しい→苦痛→楽しい→苦痛……それが子育て
最後に『プレジデントFamily2018年秋号』のこのアンケート結果をもうひとつお伝えしましょう。
A「楽しい」24%
「どちらかと言えば楽しい」56%
「どちらかと言えば楽しくない」15%
「楽しくない」5%
編集部はこの集計結果に対し、こんなコメントを付けています。
「『どちらかと言えば』が多いのは揺れている証拠、苦も楽もあるのが子育て」
今、楽しくなくとも、次の瞬間は楽しくて、その次の瞬間はまた楽しくない。その繰り返しが子育てです。今しかできない「苦も楽もある子育て」を目いっぱい、味わってほしい。子育てが終わってしまった筆者は、そう願っています。
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※『プレジデントFamily2018秋号』では、「子育てにみんな悩んでいます! 小学生母505人アンケート」のほか、特集「東大生192人 頭のいい子の本棚」として「現役東大生自身の小学生時代の読書習慣と小学生に薦める本」「国語・算数・理科・社会・英語 5教科が大得意になる本」「筑附小、慶應横浜初等部、桜蔭中・高、筑駒中・高など名門校の図書館で読まれている本リスト」などを紹介しています。ぜひ手に取ってご覧ください。
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(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ 写真=iStock.com)
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