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コンビニ変革期「坂の上の雲」が効く理由

プレジデントオンライン / 2019年1月17日 9時15分

ローソン代表取締役社長 竹増貞信氏

雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第4位の『坂の上の雲』。解説者はローソンの竹増貞信社長――。

■登場人物が持つ当事者意識に魅了

三菱商事に入って、畜産部に配属されたものの、3年目に牛肉輸入自由化に伴う過当競争のあおりを受けて大赤字を計上。私は在庫処理のために食肉販売会社へ出向となり、そうした時期に『坂の上の雲』を読みました。

100%納得のいく配属先というのは珍しいのかもしれません。しかし会社勤めの身ならば、辞令は絶対です。同期が海外に転勤になったことを聞いたときなどは、自分の境遇と比べて落ち込む気持ちがあったのも事実です。

そんななかで『坂の上の雲』を読み進むうちに、明治の激動期を生きた青年たちの熱い生きざまに心を揺さぶられました。日本という極東の小さな国が、清国やロシアという大国を相手に戦争に踏み切る。そして、軍人、経済人、政治家だけでなく、市井の人々までが、「日本の勝利」に向けて文字通り一丸となっていきます。

彼らの行動力や結果を出す力に心を揺さぶられた私は、自らの「使命」を再認識し、全国のスーパーに片っ端から売り込みの電話をかけまくりました。話がまとまると食肉売り場の一角に自前のホットプレートを持ち込み、エプロン姿で焼き肉の実演販売をしたこともあります。

やがて三菱商事に戻り、初めての海外駐在は米国にある食肉加工の関連会社でした。インディアナ州という片田舎で、日本向けベーコンなどを扱いました。そして帰国後、広報部勤務の辞令を受け、2010年には経営企画部社長業務秘書に任命されました。「自分は営業マンだ」という自負があった私には、予想外の異動が続きました。

けれども秘書の4年間、小林健社長(現会長)に付き添って働くうちに、会社組織がどのようなメカニズムで動くのか、自分の目で確かめられました。いま振り返ってみると、どの部署の仕事も貴重な経験であり、経営者としての私の血となり肉となっています。

結局、どんなときどんな場所であっても、それぞれが与えられた使命に一心不乱に取り組むことが大事です。そのことを教えてくれる『坂の上の雲』は、まさに必読書といえ、総合部門で第4位に入ったのも当然の気がします。

『坂の上の雲』の主人公はいうまでもなく秋山好古、真之の兄弟、そして正岡子規です。3人とも伊予松山藩の貧しい士族の子どもたちでした。しかし、志は実に大きい。真之は「うまれたからには日本一になりたい」と子規に語っています。事実、兄の好古にならって軍人の道に進んだ真之は、日本海海戦での「T字戦法」を編み出して、バルチック艦隊を撃破するという見事な働きをしました。兄の好古も最強を誇ったコサック騎兵を打ち破っています。

おそらく秋山兄弟は、陸軍士官学校、海軍兵学校在籍時から、「いかにすれば、日本という国が列強に負けないか」を常に考えていたのでしょう。言い換えると、日本の存続に向けた自分たちの役割を考え、そして行動していたのです。その「当事者意識」があればこそ、苦しい勉学も辛い訓練も乗り越え、結果を出していけたはずです。

主人公の3人にかぎらず、文庫版で全8巻という『坂の上の雲』で描かれる群像は綺羅、星のごとくです。戦費調達のために外債を募った高橋是清、講和に腐心した小村寿太郎……。彼らも日本の存続に向け強い当事者意識を持っており、おのおのの持ち場で全力を尽くした。

折に触れて何度か読み直してきた『坂の上の雲』ですが、直近で再読したのは17年でした。16年にローソンの社長に就任してから1年後です。そこで思ったのが、「会社も同じだ」ということでした。

経営トップや管理職だけでなく、現場の一人ひとりが「お客さまが望んでいることは何か」という当事者意識を持たずして、会社の存続はありえません。もちろん、持ち場によって役割は変わってきますが、そのなかで各自が長所を思う存分に発揮してほしいのです。そうすることではじめて輝いている社員が増えていき、会社の存続に向けた基盤も強化されていくのです。

■未知の時代や場所へ誘ってくれる読書

秋山兄弟のファンの方が多いようですが、本書の登場人物のなかで私は、正岡子規に一番惹かれています。彼は結核という当時は不治の病に侵されます。たぶん、幼馴染みの真之のように活躍したいという葛藤もあったはず。しかし、しっかりと前を向いて、病床で俳句革新運動に取り組むところが魅力的です。

子規は友人に「いまの歌よみどもには負けるわけには参らない」と書き送っています。最期まで志を失うことなく、未来に残せる俳句を考え続けました。彼を慕う高浜虚子らが、その遺志を受け継いで俳句を発展させ、秋山兄弟に勝るとも劣らない功績を文化の面で残しているわけです。

私は決して多読ではないのですが、本を読むことの重要性は十分に理解しているつもりです。人間誰しも身体は1つしかなく、いま現在しか生きられない。しかし、本を読むことで自分の知らない時代や場所に誘ってくれます。そして、どんな人が、いかなる考えで行動したのかを教えてくれます。

翻ってみると、コンビニ業界は大きな変革期に入っています。ファミリーマートがユニーと経営統合し、サークルKサンクスが吸収されました。当社もスリーエフやセーブオンにローソングループの仲間になってもらいました。業界地図は大きく変わりつつあります。

その一方で、日本国内の人口は減少に転じ、手を拱(こまね)いていると市場は縮小を余儀なくされます。およそ半世紀にわたってコンビニ業界は、新規出店をすれば売り上げがアップするという右肩上がりの時代を謳歌してきました。しかし、もはやそうした甘い時代ではなくなっているわけです。

そう考えていくと『坂の上の雲』で描かれた時代とオーバーラップしていることがわかります。だからこそ、一人ひとりが当事者意識を持って「全員経営」で臨むことの重要性を改めて痛感するとともに、明治期の殖産興業と同じように「eコマース」や「AI(人工知能)」といった新しい技術の導入も積極的に行い、新境地を切り拓いていかねばと考えています。

調査概要●2009年から2018年までのプレジデント誌で実施した読者調査(計5000人)に、今回新たに弊誌定期購読者、「プレジデントオンライン」メルマガ会員を対象にした調査(計5000人)を合算し、「読者1万人調査」とした。ランキングのポイント加算にあたっては、読者の1票を1ポイント、経営者・識者の1票は30ポイントとした。経営者・識者ポイントは、弊誌で過去に取材した経営者、識者の「座右の書・おすすめ本」と、今回取材先に実施したアンケートによるもの。続編やシリーズに分散した票は合算(例えば、『ビジョナリー カンパニー』に10票、『ビジョナリー カンパニー2』に20票入った場合は、『ビジョナリー カンパニー』に30票とした)。また、同一著者(例えば、稲盛和夫氏、司馬遼太郎氏、百田尚樹氏)による本は票数の多い書籍を「ランキング入り」としている。結果として、時代の流行などに左右されない良書が多数ランクインできたもようだ。

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竹増貞信(たけます・さだのぶ)
ローソン代表取締役社長
1969年大阪府生まれ。93年大阪大学経済学部卒業後、三菱商事入社。畜産部に配属。その後グループ企業の米国豚肉処理・加工製造会社勤務、三菱商事社長業務秘書などを経て、2014年ローソン副社長に。16年6月から現職。

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(ローソン 代表取締役社長 竹増 貞信 構成=岡村繁雄 撮影=渡邉茂樹、市来朋久)

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